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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.305
2025年3月6日号
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◆今回の内容
○神話の構造とそれが物語るもの
・単純な二元論・二項対立ではない神話
・人間精神と自然界の構造の相似性
・仏教思想の観点
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神話の構造とそれが物語るもの
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みなさんは、神話や聖典を紐解いたときに、物語として破綻していると思ったことはないでしょうか。
神話や聖典に登場する神々は、性格や行動に一貫性がなくて気まぐれだったり、全能であるはずなのに人間が苦難に見舞われているときに助けようともせず、むしろ積極的に危難を与えて人間の忠誠を試そうとしたりします。
そもそも、人間は神によって作られたのですから、神の意に沿った行動をするはずですが、そうはならずに欠陥だらけです。そのため、神は十戒を課して厳しく行動を規制しますが、それでも人間は戒めを破る。すると、神は怒りを爆発させて苛烈な罰を与えます。
日本神話では国土や様々な神を生み出した「親神」として、イザナギとイザナミの夫婦神がはじめに描かれます。二神は天の浮橋から天の沼矛を垂らして「国産み」を行います。最初にできた国土=オノゴロ島に降り立った二神は、ここで「神産み」を行いますが、最初に生まれた蛭子は不完全だったために、海へと流してしまいます。
その後は順調に神産みを行っていきますが、イザナミは、最後に火の神・カグツチを生んだ際にホトを火傷して死んでしまいます。イザナギは残されたカグツチに怒りを向けて、斬り殺してしまいます。さらに、黄泉の国に落ちたイザナミを救いに行ったものの、妻神の変わり果てた姿に恐怖して逃げ帰りながら、追ってきたイザナミとの間で呪いを掛け合います。
二神の子であるスサノオは、手のつけられない乱暴者で、姉神であるアマテラスが支配する天界に昇ると、さんざん乱暴狼藉を働いて、地上に追放されます。地上(出雲)に降りたスサノオは、性格を一変させます。出雲では、泣き伏しているアシナヅチとテナヅチの老夫婦とその娘であるクシナダヒメと出会い、なぜ泣いているのか事情を問います。
ヤマタノオロチという怪物にクシナダヒメを生贄として差し出さなければならないことで絶望して泣いていることを知ったスサノオは、ヤマタノオロチを退治して、その尾から出た刀をアマテラスに献上します。
そして、生贄にされるはずだったクシナダヒメを娶り、「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」と詠んで、穏やかに出雲に設けた宮に落ち着きます。さらに、スサノオは、息子のイソタケルとともに地上に緑を満ち溢れさせる事業を行います。こうしたスサノオの姿は、天界で殺戮を働いた姿と正反対です。
このように混沌と秩序がせめぎ合っているかのような神の性格や姿は、いったい何を表しているのでしょう。そして、矛盾に満ちた内容の神話や聖典をなぜ人間は崇めてきたのでしょう。
今回は、そんな疑問を神話の構造という観点から見通してみたいと思います。
●単純な二元論・二項対立ではない神話●
混沌と秩序がせめぎ合っているのは、日本神話だけではありません。
ギリシア神話では、秩序を司どるはずの最高神ゼウスが、美しい女性との浮名を流して、妻神ヘラの怒りを買い、騒動の火種をまき散らし続けます。一方、人間に火を授けたプロメテウスに対しては、神々の秘密を漏らしたとして、大鷲に肝臓をついばまさせる終わらない苦痛を科します。
ディオニュソスは歓喜と豊穣を授ける存在として崇拝される一方、その祭儀が血生臭い狂乱に陥ることもあり、「恵み」と「危険」、「祝祭」と「狂気」が一体化した存在とされます。海神ポセイドンは、航海の守護神ですが、オデュッセウスが自分の息子であるキュクロプスの目を潰したことへの怒りで海難を起こし、船を難破させます。
聖書でも、神は、アダムとイブが禁断の実を食べたとき、その行動を問いただして改心させるようなそぶりを示しながら、結局はエデンの園から追放し、生きることの苦痛を背負うように仕向けます。ノアの洪水では不信仰な人々を無慈悲に淘汰し、ソドムとゴモラでも大罪を犯したとして都市ごと容赦なく滅してしまいます。
聖書では神は全能とされます。ふつうに考えれば、神は人間のすべての行動を予知できるわけですから、人間が悪事を行う前にその行動を正すほうが理にかなっています。また、全ての物事は神の意志で決まっているとされますが、それなら、人間の自由意志などないはずです。こうした点は、旧約・新約聖書がはらむ大きなパラドックスです。
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