□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.248
2022年10月20日号
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
○定位=自分の存在位置を知ること
・ナビゲーションからウェイファインディングへ
・海馬の進化と退化
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
定位=自分の存在位置を知ること
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
フィールドワークの体験ツアーなどで、実際にGPSアプリなどを使って方位測定してもらうと、参加者たちは、一様に、古代の人たちが非常に正確に太陽の出没方位などを計算して聖地を設計していることに驚き、「GPSも正確な地図もない時代に、よくこんなに正確に設計できたものですね」と言います。ですが、それは、現代人の傲慢さを象徴する言葉ともいえます。
フランスの哲学者シモーヌ・ヴェイユは、『根をもつこと』の中で、次のように書いています。「小学校に通う現代の農民の子のほうがピュタゴラスよりよほど物知りだと、一般には思われている。たんにその子が、地球は太陽のまわりを回っていると、すなおに復唱するからという理由で。だが現実には、その子はもはや星を見上げもしない」。
単に「知っている」ということと「理解している」ということの間には、大きなギャップがあります。「GPSも正確な地図もない時代に、よくこんなに正確に設計できたものですね」と言う人も、ではGPSがどのような測位のシステムなのか理解している人はほとんどいないでしょう。
そもそもGPSが民生用として活用されはじめたのは21世紀に入ってからのことで、それ以前は、古代に生まれた測位方法をベースにした測量法が用いられていて、測量に詳しい人なら、古代人も高度な測量技術を持っていたことを知っています。
また、「知っている」ということと「実感している」ということの間にも大きなギャップがあります。太陽が東から昇って西に沈むことは誰でも知っています。ところが、日中に太陽の位置から判断してどちらが東でどちらが西かと聞かれて、即答できる人は少ないでしょう。同様に、北極星が真北にあるということを知ってはいても、夜空を見上げて、北極星をすぐに指し示すことができる人も少ないはずです。
ピュタゴラスの時代には、まだ天動説が主流だったわけですが、当時の人たちは日常的に空を見上げて星や太陽の動きを観察し、時間や季節の進み具合を実感し、それをもとに生活していました。その意味では、現代に生きる私たちよりも、日常における自然や宇宙との関わりが、はるかに深かったといえます。
今でも、占星術を信じる人が大勢いますが、その占星術の成り立ちは、天動説が主流だった頃に遡ります。
夜空を観察すると、ほとんどの星は同じ軌道を巡っています。しかし、太陽を含めた太陽系内の星は、他の星々とは異なる複雑な軌道を示します。「惑星」という言葉は、惑い動く星という意味で、天空をふらふらとあっちへ行ったりこっちへ行ったりする動きを表したものでした。
天動説では、その不可解な惑星の動きを合理的に説明することができません。そのため、様々な理屈がつけられました。そんな中から生み出されたのが占星術です。一定の軌道を巡る星々が描く「星座」を背景に、惑星はその間を渡り歩いていきます。そこで、惑星には意思があり、その時々に惑星が位置する場所によって地球に影響を与えていると考えたのです。
今にしてみればナンセンスな話ですが、それでもそうした疑問が生まれ、それを説明しようとした昔の人たちは、今の私たちよりも注意深く星空を見つめていたことに変わりはありません。そして、そうした注意深い宇宙スケールの観察によって生み出されたものとしての聖地もあるわけです。
自分が今、位置している場所を知ることを「定位」と言いますが、天体の動きを反映した構造を持つ聖地は、そこを崇める人たちにとって「定位」のための装置、つまり、宇宙の中での自分の居場所を指し示してくれる場であったわけです。
GPSシステムを手に入れて、恐ろしいほど正確に「現在位置」を知ることができるようになり、ナビに頼ればどこへでも道に迷わずに行けるようになった現代人ですが、自分がどこに存在して、何に囲まれているのかという昔の人たちが当たり前に持っていた意識は、逆に希薄になっているのではないでしょうか。
「定位」という言葉には、空間的な位置というだけでなく、過去と未来という流れの中で、「現在」を実感するという時間概念に結びつく意味もあります。「現在」にたしかな足場があるからこそ、過去を振り返ってそれを反省し、未来につなげていくことができます。そうした時間的な定位ができなければ、過去を反省することも未来を見通すこともできません。
今回は、そんな現代人が失いかけている「定位」について考えてみたいと思います。
>>>>>続きは「聖地学講座メールマガジン」で
初月の二回分は無料で購読いただけます。
最近のコメント