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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.301
2025年1月2日号
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◆今回の内容
○森の生命・森の聖性
・森の地下のネットワーク
・森と神話
・マザーツリー
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森の生命・森の聖性
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みなさま、あけましておめでとうございます! 2025年に入り、301号となった今回からは、また新たな気持ちでこの聖地学講座を進めてまいりたいと思います。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
近年では、正月の風物も希薄なものになり、親戚が集まって、お屠蘇を飲み、おせちを食べるといった光景もあまり見られなくなりましたが、みなさんのお宅では、どのように新年を迎えられたでしょうか。
昔からの風習を守って、年末に門松を立てて新しい年に備えられていた家庭もあるでしょう。この門松は、新しい年に家々を訪れる「年神様」を歓迎し、幸福や豊作をもたらしてもらうという意味があります。古来、松は常緑樹であることから永遠や不老長寿の象徴とされ、竹は生命力やまっすぐに伸びる節操を表す縁起物と考えられてきたのが、その由来です。日本人は縁起物の語呂合わせが好きですが、松には「神を待つ(松)」という意味も重ねられていました。
正月飾りの少し前には、クリスマスツリーを飾られた方もいるでしょう。これもやはり常緑のモミに永遠や不老長寿の意味が重ね合わされています。以前、クリスマスの由来を解説しましたが、その原型は、北欧のユールや古代ローマのサートゥルナーリアと呼ばれた冬至祭でした。日本の正月も、本来は冬至に新たな年に切り替わるもので、冬至を境に日が伸びてくることを「太陽の再生」として祝い、生命の循環を願う日でした。
こうした太陽信仰と樹木信仰の組み合わが新年の行事とされるのは世界各地に共通に見られますが、距離が隔てられていて、文化の交流のなかった地域でも、人は同じように自然を捉え、同じような風習を伝えているのが不思議です。しかし、逆に言えば、そこに人類共通の精神が表出しているともいえます。
私は、クリスマスから大晦日にかけて、一冊の本を読んでいました。それは、リチャードパワーズの『オーバーストーリー』という小説でした。ここには、木と森を巡る様々な人の人生が描かれています。一見、互いの人生がまったく交錯しそうにない、住む場所も立場も違う人たちが、「森の意識」といったようなものに引き寄せられ、ひとつの流れの中に巻き込まれていきます。
この小説は、木や森を“意識のある存在”として捉える視点や、菌根菌ネットワークによる木々同士のコミュニケーションという科学的モチーフを背景にしていて、読者に「人間世界と森の世界が実は繋がっている」という感覚を強く味わせます。地球上の人たちみんなが、新たな年を迎えるという同じ意識を持つこの時期でもあったため、この小説の世界観にひときわ共感させられました。
そんなこともあって、この301回では、森と人との関わり、とくに樹木信仰と近年明らかになった森のネットワークシステムについて掘り下げてみたいと思います。
●森の地下のネットワーク●
森といえば、私にとってとくに印象深いのは、生まれ故郷の近くにある鹿島神宮の叢林です。本殿前の切り開かれた広場を抜け、奥宮への参道へ入ると、巨木の森に飲み込まれます。南方系と北方系の植物が混在するこの森には約800種の植物が生育しています。
モミ、スギ、シイ、タブノキ、クスノキ、カシ類といった高木層はいずれも20メートルを越す巨木で、低木層にはヒサカキ、モチノキ、シロダモ、モッコク、アオキ、アリドウシなどが見られ、さらに、草本層にはヤブミョウガ、オカメザサ、シダ類が繁茂して、森全体がひとつの荘厳なカテドラルのような生態系を成しています。
その巨木の森を進みながら樹冠を見上げると、それぞれの樹が樹冠が干渉しないように空間を分け合い、その隙間を通して射しこんでくる陽が地面に踊って、あたかも巨木同士の会話に包まれているような気にさせます。大きな生態系に包まれ、その生態系の会話に耳を傾けているような感じ。その感覚こそが、聖域がもたらす安らぎなんだろうなと実感させます。
面白いのは、そうした目に見える森の生態系は森のごく一部でしかなく、その地下にはもっと複雑で神秘的な生態系を築いていることです。それは、『オーバーストーリー』の重要なモチーフにもなっていました。
樹木層の地下では、菌根菌と呼ばれる真菌類が、地中で無数の木々の根を結びつけ、栄養や化学信号をやり取りしているのです。それは、複雑なインターネット網(World Wide Web)を想起させることから「ウッド・ワイド・ウェブ(Wood Wide Web)」と呼ばれます。この樹木の秘められたネットワークは、一本の樹の根元から他の樹の根元へと情報が伝達され、森全体が一本の“巨大な生命体”として機能している可能性まで示唆されています。
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