**お水送り神事のクライマックス送水神事。中松明組はこの正面に参列する**
**若狭に残る不老不死伝説を繋ぐ道"若狭不老不死伝説街道"**
3月2日、若狭神宮寺、鵜の瀬で行われる神秘的な神事"お水送り"に参加した。
今年で通算4回目だが、今までは手松明を携えて4,5000人の長い行列に連なっていたのに対して、今年は四人一組で中松明を担ぎ、奈良東大寺へ送る「御香水」のすぐ後ろに続いた。
長大な行列に加わるのも素朴で心打つものがあるが、八人二組で交代しながら中松明を担いで行くと、同じ松明を肩に載せた仲間たちや他の中松明組、世話役との連帯感もあって、この神秘的な祭りの真髄に近いところに自分が位置しているという感動が沸き上がってくる。
力を合わせて中松明を運び、「送水神事」が行われる鵜の瀬に着いてもまだめらめらと燃えるその松明を寺僧たちに手渡す。その火は、鵜の瀬に設えられた護摩壇に移され、それが大松明にと移されて、対岸に運ばれる。
そして、中松明を運んできたぼくたちは、遠敷川の流れを挟んで目の前で、一部始終を見届ける。
まず、白装束の呪師が御香水を流し入れる渕で祝詞を唱える。それが終わると、祝詞を記した懐紙をハラリと流れに落とし、ひき続いて背後の寺僧から、ここまで火に清められ守られてきた長筒が手渡される。そして、呪師の手によって御香水は真下の渕へ静々と注ぎ入れられる。
伝説では、この御香水が、10日後に奈良東大寺二月堂の「若狭井」から湧き出し、二月堂の秘仏十一面観音に捧げられるとされる。
この祭りに参加して四度目にして悲願であったこの「送水神事」を眼前で目撃することができた。この儀式を見つめているうちに、若狭という土地と関わりを持ち、様々な出会いをしてきた思い出が沸き上がって、それが滂沱の涙となって頬を濡らした。
少年少女のような姿のまま不老不死であったと伝わる若狭創世神の若狭彦・若狭姫神、人魚の肉を食べて不老不死となってしまった八百比丘尼、秦の始皇帝の命を受けて東の国に不老不死の妙薬を探し求めた徐福の末裔である良弁和尚、遠くペルシャから渡来して火の祭りを創始した実忠和尚、そして遣唐使として唐に渡って不老不死の秘術"煉丹術"を収めた空海……そのすべてが、この若狭という土地に交錯する。
若狭は、稀有な不老不死伝説の中心地といえる。そして、お水送り神事は不老不死伝説の全てを統べる象徴となっている。
なぜ人は不老不死に憧れるのか、そして、不老不死の本質とは何なのか。
西洋の錬金術では、非金属から貴金属である金を生み出すという非常に「俗」な欲求を突き詰めていくうちに、錬金術師の精神が変容してゆき、物理的に金を生み出すことが目的ではなく、精神の永遠性を獲得することが目的となっていくとされる。
お水送り-お水取り神事に秘められた不老不死の秘儀も、錬金術と同様に精神の永遠性というテーマがそこに体現されている。この神事に秘められた歴史や人物たちの想いを脳裏に浮かべながら儀式に参加すると、呪師の注ぎこむ御香水が儀式に参加した人々すべての想いを載せて遠く奈良の地に運ばれ、そこでも多くの人達に見届けられ、互いの想いが結びあわせられるものであることが理解できる。
中世に創始され1300年近くも続くこの神事は、創始した人々と同じ感動を現代人の心にも与えてくれる。水に想いを載せ、それが確かに遠く隔たった地に届けられる。それをイメージする心こそ『不老不死』の本質だと、創始者たちは伝えようとしたのではないか。
奈良ではお水取りが春を告げる祭りとされる。若狭ではお水送りが春を告げる。ぼくにとっても、今ではお水送りが春を告げる大切な行事となった。
**ツアー初日、不老不死伝説にまつわるポイントや人物たちのレクチャー**
**不老不死伝説ポイントの一つ、若狭石観音。空海が自然石に一夜にして刻んだ聖観音が残る。花崗岩の一枚岩に刻まれたこの観音は、次のポイントの瓜割滝を正確に指している**
**石観音が指し示す瓜割滝。白山開山の泰澄が開き、空海が引き継いで崇めたとされる聖水。近年、犬連れの観光客が聖域に犬を入れて水浴びをさせたため、赤岩の間から流れ出る湧水周辺は立ち入り禁止となってしまった**
**送水神事が行われる鵜の瀬に生まれ、人魚の肉を食べて不老不死となってしまった八百比丘尼が、諸国流浪の果てに故郷に戻って無事入定を果たしたとされる入定洞。小浜市の空印寺境内の外れにある**
**若狭の創世神若狭彦を祀る若狭彦神社。若狭姫と一対で、ともに少年少女の姿のまま不老不死であったと伝えられる**
**お水送り神事が行われる神宮寺で護摩焚きを待ち受ける。中松明の担ぎ手は揃いの白い法被を着る**
**神水を清める大松明に引き続き護摩焚きから火を受ける**
**大松明が引継ぎする間、松明を立てて一休み。担ぎ手は四人一組で、八人二組が交代で進んでいく**
**若狭不老不死伝説に因んだ『若狭不老不死エキス』。一日に耳かき一杯程度で滋養強壮に**
■2007年若狭お水送りと不老不死伝説ツアー■
■2009年若狭お水送りと不老不死伝説ツアー■
■2010年若狭お水送りと不老不死伝説ツアー■
■2012年若狭お水送りと不老不死伝説ツアー■
来年は、湖上館・PAMCOを主催館に若狭不老不死伝説の宿が協力し参加枠を拡大して中松明を担ぐツアーを実施します。詳細は上記リンクからどうぞ。
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