先月末、体調を崩して延期した白馬へ、この2日に出発。当日は、現地ですっかりお馴染みとなったペンション「ミーティア」
のオーナー福島氏と北野建設白馬営業所の下川氏と、久しぶりに会って、ぼくの拠点を白馬に置く話など。
三人で飲み始める前に、ミーティアに宿泊しているお客さんたちと蛍が観られる湿原へと出かける。
6月には身延で源氏ボタルが舞う幻想的な風景を観たが、今の時期の白馬で観られるのは平家ボタル。源氏ボタルと比べると小ぶりで光も弱いが、
周囲に人工光の何もない山の湿原で周囲から舞い上がる仄かな光に包まれていると、この世でないどこかを漂っているような気がしてくる。
湿原から、今度はそれを取り巻く樹林の中へ。懐中電灯を持たず、真っ暗い世界を福島氏の先導で進む。
暗闇の中を歩くといった経験のない都会育ちの子供たちは、はじめは怖がっていたが、次第に夜目が利くようになってくると、
不思議の国のアリスのように、この初めて経験する世界に興奮していた。
樹林を抜けると、そこは草原で、空には満天の星が。残念ながら台風の余波で湿気の多い空には天の川は見えなかったが、
樹林の闇になれた目には、星明りがまぶしいほどに感じられた。
翌3日は、久しぶりにインプレッションの仕事で、ミーティアの近くで開催されたBMWの試乗会場へ。
最新の二輪と四輪をとっかえひっかえ、高原のワインディングを駆け抜ける。
その夜は、BMWのパーティもそこそこに、再びミーティアで飲み会。先日のシルクロードツアーの写真を披露する。白馬拠点の話も、
徐々に具体的に。
やはり、自然が身近にあって、様々なアクティビティがすぐに楽しめ、ゆったりとした気持ちで生活ができるこの場所に、
後半生のベースを置きたいと思う。そのために、仕事の内容やらシステム、そしてライフスタイルを変えていかなければならないだろう。
翌4日は、これもBMWのイベントで、「白馬47」をメインステージに開かれたバイカーズミーティングに顔を出し、
午後には山梨の朝霧高原へ移動する。
ここでは、かつてのバイクレースの相棒で、アナーキーのボーカル仲野茂が野外ライブをするので、そのギャラリーに。
相棒はアナーキーのナンバーとボブ・ディランのナンバーそれぞれ一曲ずつ披露しただけだったが、久しぶりに迫力のある彼の歌には感動した。
彼のほうが一つ年上だが、このパワーは見習わなければと思わされた。
その後、「地球のステージ」というボランティア団体のスライドの上映会があったが、これはどうもピンとこない。
桑山氏というこの団体の代表が、世界各地で難民救援活動などを行いながら、その自分の体験をスライドとともに語るのだが、
妙に場慣れしている雰囲気で、あまりにも流暢すぎる語り口調には、温かみというか自然な感情が感じられない。そこで語られるエピソードも、
綺麗な言葉だけ並べた自作の歌も、まるで心に響いてこない。
ほとんど、片隅で舟を漕いでいた。
隅のほうで、コンサートを終えた相棒たちが、焚き火しながらボソボソ話をしていると、べつに呵呵大笑していたわけでもないのに、
「大切な話をしているんだから静かにしてください!!」と唐突に怒る。まるで、新興宗教の教祖が余所見をしている信者に怒るようで、
不気味な空気が流れる。彼らの活動自体には何の異存もないのだが、こういう人たちとは一緒にいたくないなという気にさせられる。
「自分たちは人のために汗水流しているんだ。だから、誉めてもらわなければならないんだ。
ぼくたちの活動は人類にとって大切なのだから、もっともっと広めていかなければならないのだ」といった、ドグマが濃厚に感じられる。
かつては上九一色村と呼ばれ、オーム騒動に揺れたこの場所で、こうしたドグマを突きつけられると、
まだまだカルトには警戒しなければいけないという気分になる。
その夜は、この朝霧高原の一角にある相棒の新居にご厄介に。
翌日は、相棒が通う近所の乗馬クラブを訪ねる。
ここでは、一般的な乗馬体験の他、エンデュランスというオープンフィールドを舞台にしたレースに積極的に参戦している。
そのビデオなど見ながら、プロモーションの相談を受ける。
レースのロケーションは、ぼくが昔走っていたバイクのエンデューロレースとほとんど同じだが、森閑とした森に、
ゆったりとした蹄の音と馬の息遣いだけが響き、映像を見ているだけで自然と一体の競技であることが実感できる。
エンデュランスには、距離によっていくつかのカテゴリーがあり、
いちばん長いもので100マイル(160km)をほぼ一昼夜かけて走る。どのカテゴリーでも、レースの途中で馬体検査があって、
そこで馬の健康状態が悪いと判断されるとリタイアとなってしまう。
ただ速く走ればいいというのではなくて、馬の体調を気遣いながら、取り巻く自然の雰囲気に浸って走るこの競技は、
とても今日的なもののような気がする。動物と触れ合うことによるセラピーなどというものが喧伝されているが、動物から「癒し」
を与えられるだけでなく、こうして、動物と人とが一体となって、自然に溶け込んでいくような体験が、もっともっと必要な気がする。
東京に戻って、その夕方には、六本木で開催されたThink the Earthのトークショーを観に行った。
昔、SEGAで一緒に仕事をした上田壮一氏が代表をつとめるThink the Earthは、
エコロジーとエコノミーの共生をテーマに、サステイナブルな世界を作るために企業と共同で様々なプロジェクトを行っている。
毎年夏には、ウォーター・プラネットキャンペーンとして、
協賛する企業のショップなどを中心にミネラルウォーターの配給ステーションを置いて、ここでマイボトルに自由に水を汲めるというもの。
そのキャンペーンの一環として、地球における水の役割と温暖化の現状をトークするというもの。
前半は熱帯雨林での生物多様性を研究していた足立直樹氏が、海に潜るようになって、
そこでの生物の多様性が陸上と比べてはるかに豊穣であることに驚き、それが今、危機にあることが地球温暖化の深刻さを物語っているという話。
後半は、2025年に世界が持続可能な状態にあることを目指す「2025project」の代表福井崇人氏が、
自ら世界中に地球温暖化の影響とは実際にはどんなものなのかを見に行ったレポート。
温暖化による海面上昇によって真っ先に沈むと言われている南太平洋のツバルでは、実際に海岸が侵食され、
椰子の木が波に倒されている現場を見て、深刻に感じるものの、そこに暮らす人たちが、いたって穏やかで、あまり危機感を持っていないという。
一方、グリーンランドでは温暖化によって雪が少なくなり、氷河が溶けて、海では生物が増えて、
暮らしやすくなったとそこの住民は喜んでいるという。
マスコミの喧伝とはずいぶん違った実態を飄々と語る福井氏のレポートは、情報をどう解釈するかという問題が見えて面白かった。
Think the Earthの活動が、何よりもいいのは、自分たちが人のために何かをしてやっているんだとか、
自分たちがやっていることは価値があるんだといった、人を見下したようなスタンスで行動するのではなく、
自分たちもこの地球に関わることでは当事者であり、何ができるのかを思い悩んで、本の少しでも地球のためになる、
あるいは地球というものに目を向ける契機となるようなことをしていこうというナチュラルなスタイル。
謙虚に、しかし、しっかりと行動していかなければならないと、この一週間、ノマドしながら思い知らされた。
しかし、まだまだノマドが足りないと、動き回れば動き回るほど思う。
これからの後半生は、とにかく動き回っていこう。
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