前回のエントリーで、『ノルウェイの森』について書いた。
後で奥付を見て、1987年9月にその初版が出ていることを知って、驚いてしまった、今からもう20年も前なのか、 この作品が出版されたのは……。
同じ村上でも、龍のほうは、初期の作品はあまりその世界に入り込むことが出来なかったのが(唯一『コインロッカーベイビーズ』 だけは夢中になって読んだ)、だんだん彼も自分も歳を経るに従って、彼が発表する作品がとても身近に思えてきたのに対して、春樹の作品は、 若い頃にはけっこう楽しめて読めたのに、最近の作品は、まるで心に響いてこない。
現実からほんの少しだけ自己スポイルした、けっこうハードボイルドな主人公が、 「人間性が失われていくのは高度資本主義社会の宿命みたいなもんだよ」と、他人事のように呟くシチュエーションは、 シンパシイは感じなくとも、それなりに心地のいい世界観なのだが、斜に構えるのをやめて、文学者として正面から世界を捕らえようとすると、 斜に構えているときの『青さ』が、心地よいものから、途端に表現としての拙さに変わってしまう。
それはともかく、久しぶりに読み返した『ノルウェイの森』は面白かった。村上春樹の一つの頂点だと思う。
ここに描かれているそれぞれタイプが異なる三人の女性。タイプは異なるのだが、それは女性の「脆さ」の表現形の違いだけで、 本質は同じように見える。三人がコアに持つ、男として「守ってあげたい」と感じさせる「脆さ」は同じ質のもので、 そこに主人公は魅かれていく。そして、同じ男として共感を覚える。
だが、ふと、女性はここに描かれている女性たちをどう思うのかと疑問に思った。村上春樹は元々女性にもうけのいい作家だが、 彼が描く女性は所詮、男性視点から描かれた都合のいい理想像なのではないか? そんな女性の登場人物に、 生身の女性は違和感やら反感を持たないのだろうか?
女性読者の感想を聞いてみたいところだ。
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