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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.270
2023年9月21日号
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◆今回の内容
○聖地としての日本庭園
・作庭記における自然観
・作庭と風水
・この夏、印象に残った日本庭園
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聖地としての日本庭園
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この夏も、また昭文社のツーリングマップルの取材で、担当の中部北陸を巡り歩いています。それにしても、年々過酷さを増す暑さに、オートバイはもはや夏の乗り物ではないなと実感してしまいます。なにしろ、外気温が37℃とか38℃などという気温では、路面からの輻射熱もあって、体感温度は軽く40℃を超えてしまいます。そうなると、ヘルメットとライディングウェアという重装備でサウナに入っているようなもので、命の危険をリアルに感じます。
そんなわけで、炎天下ではあまり走り回らず、独自に今年のテーマを決め、陽を避けてゆっくりとすごす時間をとるようにしました。そのテーマというのは、「日本庭園」を巡ることです。日本庭園といっても、日本三名園に代表されるような大きな公園ではなく、地方にひっそりある寺の庭園や、かつての豪商や豪農などが趣味で作った庭園です。
この日本庭園というテーマは、じつは、だいぶ前から考えていたもので、いずれ全国の庭園を巡って、その構造をレイラインハンティング的な手法で解析してみようと思っていたものでした。今年の取材では、編集のほうから特段のオーダーがなかったので、ここぞとばかりに、懸案の日本庭園巡りをスタートすることにしたわけです。
なぜ、日本庭園かといえば、日本庭園の設計思想とそのノウハウが、聖地と同じように、方位を重視し、また取り巻く地形や自然を意識していて、庭園自体が聖地をそこに具現化しようとしているものともいえるからです。日本庭園を観ることは、具体的かつ明確に設計された聖地を観ることと一緒なのです。
●作庭記における自然観●
日本庭園を造ることを「作庭」といいますが、その作庭の思想と技法には法則があります。それを記した作庭のバイブルとも言えるのが『作庭記』です。『作庭記』は、平安時代に成立したもので作者不詳。元は『前栽秘抄』と呼ばれていましたが、江戸時代中期に塙保己一の編纂した『群書類従』の中で『作庭記』と記され、それが一般的な呼び名となりました。まとまった作庭書としては世界最古のものと言われ、現代の作庭家たちもこれに準じた庭作りをしています。。
その『作庭記』の冒頭は、「石をたてん事、まづ大旨をこゝろふべき也」という見出しに続いて、「一、地形により、池のすがたにしたがひて、よりくる所々に、風情をめぐらして、生得の山水をおもはへて、その所々はさこそありしかと、おもひよせくたつべきなり」とあります。
「石をたてん事」つまり「石を立てること」が、すなわち庭を造ることであり、その要諦の第一が、「周囲の地形や池の様子を勘案しながら、柔軟に独自の趣向を凝らし、理想の自然のあり方とその場所の条件に合わせた様子を思い浮かべながら、<石を立てる…作庭する>のである」という意味です。
庭は、ただ自由気ままに造るのではなく、周囲の自然や植生を考え、それに理想とする庭の形とを重ね合わせて、その土地に合った形の庭を創造しなければならないというわけです。人工と自然との融合であり共生であるのは当然として、人間が自然と向き合ったときにいだく畏怖の感覚や自然との一体感といったものを、庭はより際立たせる機能を含んでいるということでもあります。
この夏、10ヶ所あまりの庭を訪ねましたが、そこには、熱心な学芸員や地元の有志の方がいて、庭の歴史や庭に込められた意図などを解説してくれました。そうした話ももちろん興味深いのですが、方位にまつわる思想や風水に詳しい人はおらず、そこは逆に、私が庭の方位を測って、その構造と意図を解析して、逆に解説するような形になりました。
巡ったすべての庭が、ただその場所だけを考えているのではなく、周囲の自然をしっかり意識しています。さらに、巨岩を中心に周囲に配された石が、太古のストーンサークルと同じように、東西南北の四方位と二至二分、立春・立冬の方位を指し示すように配置され、さらには中心の立石と周囲に配された石とを結んだラインの先には、庭から見える周囲の山の峰や鞍部と重なるようなケースもありました。
古代のストーンサークルや現代まで続く聖地のほとんどは、周囲の地形と構造を対応させ、太陽や月、その他の天体との動きとも対応させるのがセオリーですから、こうした庭もまさに聖地といえるわけです。しかも、多くの聖地が、そこを支配した権力者の意図や、社会的・経済的事情によって、本来の形から改変されていることを考えれば、日本庭園はよりピュアな聖地ともいえます。
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