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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.187
2020年4月2日号
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◆今回の内容
○疫病除けの神と風習
・疫病除けの神と聖地
・疫病除けの風習
◯お知らせ
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疫病除けの神と風習
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前回は、世界が今までに経験したパンデミックと、それをきっかけに世界がどのように変化したかを人々の信仰や聖地の観点から辿ってみました。
あれから二週間、新型コロナウイルスの感染は衰えを見せるどころか、世界中をさらなる恐怖のるつぼに巻き込んでいます。この疫病の犠牲者が増えないことと、いち早い収束を願いつつ、今回は日本での疫病神の信仰について見ていきたいと思います。
つい先日、ネット上で「アマビエ」という半人半漁の妖怪の絵が飛び交いました。水木しげるも「ゲゲゲの鬼太郎」の中で登場させているこの妖怪は、海の中から光り輝きながら現れ、稲作の豊凶や疫病の流行を予言したとされます。
弘化三年四月中旬(1846年5月上旬)、肥後国(熊本県)の海岸に数日に渡って現れ、調査にやってきた役人に向かって、「当年より六ヶ年の間は諸国で豊作が続くが疫病も流行する。私の姿を描いた絵を人々に早々に見せよ」と言い残して姿を消したとされます。その話が江戸まで伝わり、挿絵付きの瓦版で紹介されると、たちまち評判になりました。江戸の庶民は、その瓦版の挿絵を切り抜いて、軒や柱に貼り付けて疫病除けを願いました。
先日、ネットで飛び交ったアマビエの絵は、京都大学が所蔵するこの瓦版の挿絵と、それを元に水木しげるが描き起こしたものでした。得体のしれない疫病というのは、いつの時代でも人間の根源的な恐怖を掻き立てるものです。科学技術が進んでも、未知の疫病が現れれば、それに恐れおののいて、藁をも縋ろうと考える心性は昔と変わりありません。ネットからダウンロードした絵をプリントアウトして貼った人は、はからずも江戸の庶民の感覚を追体験したわけです。
疫病除けの護符といえば、昔はほとんどの家に、角大師(元三大師)の札が貼られていたものでした。じつはかくいう私の家でも、いまだに、毎年正月に配られるこの御札を北東鬼門に面したリビングの壁に貼り付けています。長い角を生やし痩せさらばえた角大師の姿は、それ自体が妖怪そのもので、子供心にこの御札を恐れたものでした。後に、これが角大師の化身した夜叉の姿だと知っても、やはり壁の隅にその姿を見るとドキリとします。
これは、天台宗中興の祖である慈恵大師・良源が夜叉の姿に変身して疫病神を追い払ったという伝説に因んだもので、はじめは比叡山麓の坂本の集落で魔除け、疫病除けとして貼られ、それが京都市中から全国へと広まってゆきました。
年末の大祓や夏越の祓で潜る茅の輪も、その由来は、蘇民将来伝説の疫病除けですし、村や集落の外れに祀られる塞の神も、疫病がそこから内へ入って来ないようにと願って置かれたものでした。
前回も触れたように、ヨーロッパでは中世から近世にかけてペストに何度も襲われていますが、日本では、古代から近世にかけて、痘瘡(天然痘)やらい病、百日咳、赤痢などが流行し、そうした疫病が疫神や怨霊の祟りによるものとして恐れられました。そして、疫神を除けたり祓ったりする様々な信仰が生み出されていきました。
今回は、そんな日本の疫神信仰についてまとめてみました。今回の新型コロナ肺炎は、拝めば治るというものではもちろんありませんが、過去、私たちの祖先がどのように疫病をとらえ、その恐怖を克服し、さらに疫病の恐怖を後世に伝えてきたかを知ることは、この新しい疫病を克服する上でも役に立つのではないかと思います。
3.11の津波の後、その到達線に沿って神社が並び、地元では「津波が来たら、あの社まで逃げろ」という伝承が受け継がれていたといった事例は記憶に新しいところです。明治以降に神社合祀の政策によって、村の鎮守や、集落の外れに置かれた小さな祠のようなものが一纏めに合祀されてしまったり、津波除けの言い伝えのようなものが淫祠邪教や迷信として排斥されてしまったために、昔の人が残してくれたこうした警鐘は、残念ながらすべての人に周知していたというわけではありませんでした。
そんなことも念頭に置いて、読んでいただけたら幸いです。
●疫病除けの神と聖地●
★牛頭天王、八坂神社
新型コロナ肺炎が日本でも流行りだしてから、京都の八坂神社をはじめ、各地の八坂神社にお参りに行く人が増えているそうです。八坂神社といえば、先に挙げた茅の輪くぐり=蘇民将来伝説と深い関係があります。
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