□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.180
2019年12月19日号
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
○宝珠が表す神話の力
・ドラゴンボール
・宇治の宝蔵
・追記
◯お知らせ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
宝珠が表す神話の力
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
神社にお参りに行って、境内を見て歩くと、灯籠に玉のようなものが彫り込まれていたり、あるいは神紋の中に描かれていたりするのをよく見かけます。見方によっては桃太郎の桃のようにも見えるこの玉は「宝珠」と呼ばれます。
毎年、3月2日に行われる「お水送り」の由来地である若狭姫神社の神紋は、波間に浮かぶ宝珠ですが、何も知らずに見ればドンブラコと流れてきた桃太郎の桃そのままなので、ここには桃太郎が祀られているのかと思ってしまいます。じつは、桃太郎の桃もその意味合いは宝珠と同じなので、これが桃に見えても完全な間違いではないのですが。
桃太郎は山の上のほうから流れてきた大きな桃の中から誕生しますが、この桃は、上流の桃の木から落ちたものではなく、異界から流れてきたもので、桃太郎が異界が秘めた尋常ではない能力を持っていることを暗示しています。道教では、異界に広がる楽園には、桃の花が咲き誇り、たわわに実が生る光景をイメージして『桃源郷』と呼びますが、これも桃の形が宝珠を連想させることに由来しているのでしょう。同様に、浦島太郎が龍宮城から持ち帰る玉手箱も、すでにその名前の中に異界との強い繋がりを示す「玉=珠」が含まれていて、強い霊力が秘められていることを暗示しています。
日本の天皇位を象徴し、それを保持することが天皇の権威の裏づけとされる三種の神器にも玉が含まれています。これもやはり異界との繋がりを象徴するものです。天叢雲剣もしくは草薙剣と呼ばれる神剣は、スサノオがヤマタノオロチを退治した際に、その尾から出てきたものをアマテラスに献上したものとされますが、ここには、単に異界からもたらされる物だけでなく、異界の者から奪い取ることによって力を得るという、神器(レガリア)に通底するモチーフが表れています。
今回は、そうした異界と繋がる神器、とくに宝珠について、その由来や機能を掘り下げながら、なぜ神話の重要な要素として宝珠が登場するのか考えたいと思います。
●ドラゴンボール
宝珠という言葉から、真っ先に龍を思い浮かべる人も多いでしょう。龍が描かれた絵のほとんどは、その顎下に宝珠を保持したり、鋭い鉤爪で宝珠を鷲づかみにしています。この宝珠は如意宝珠です。如意宝珠はその名のとおり、これを持つものに如意自在の力を授けてくれるとされます。龍王はこの宝珠を帯びることによって、畜生身の苦を逃れ、あらゆる神通力を得るのです。
漫画の「ドラゴンボール」は、どんな願いでも叶うという「ドラゴンボール=龍が保持する宝珠」を求めていく冒険物語です。作者の鳥山明は、『南総里見八犬伝』から想を得てこの漫画を描きましたが、原典である『南総里見八犬伝』も特別な力を持つ玉を保持する八犬士の冒険物語であり、異界の力を秘めた宝珠が重要な役割を果たします。
幸若舞の演目のひとつである『大職冠』にも、宝珠が持つ力とそれをめぐる龍と人間との戦いが詳しく描かれています。
大職冠とは大宝律令における最上位の官位で、史上、藤原鎌足ただ一人に与えられたものなので、「大職冠」といえば鎌足を指します。鎌足が創始となる藤原家は天皇家と密接に関わりながら、次第に融合して、中世以降、実質的な日本の支配一族となっていきます。この物語では、天皇家の三種の神器の玉と同様に、藤原家の権力の源泉も異界と繋がるエレメントとして由緒正しい「宝珠」にあるとされるのです。
>>>>>続きは「聖地学講座メールマガジン」で
初月の二回分は無料で購読いただけます。
コメント