「メディテーション」というほど大げさではないけれど、それをしていると無心になって、気分をリフレッシュできることがある。包丁研ぎもそんなことの一つだ。
魚をさばくのに、ほんとうはがっしりした厚手刃の出刃包丁がいい…というか、出刃包丁しかないことはわかっているのだが、鋼の出刃はほとんど使わないのに、一匹の魚をさばくのに使って、その後、軽くタッチアップして、乾かして、薄く油を引いて仕舞うなんて手間を考えると、どうしてもいつも使っている包丁を流用してしまう。
形は出刃だからいいかなんて言いわけしつつ、ゴリゴリと骨切りしたりするものだから、薄手の刃は細かい刃こぼれがたくさんできて、部分的にはこぼれずにささくれのように捲れてしまったりしている。
今朝、玉ねぎをスライスしていたら涙がでてどうしようもないので、ついに研ぐことにした。
研がなくちゃと思っている間は、面倒でなかなか砥石を持ち出すところまでいかないのだけれど、一度はじめてしまうと、徐々に研ぎ上がっていく感触の変化に没頭してしまう。
細かい刃こぼれだけなら10分も研げば落とせるが、一箇所だけけっこう大きなこぼれがあり、切っ先も捲れてしまっていたのと、砥石が仕上研ぎ用のしかなかったので、ベストコンディションにするまで30分あまりかかってしまった。それでも、今度は向こうが素通しになるくらい玉ねぎを薄くスライスしても、まったく涙も出なくて、こんなことで、妙に大きな達成感を味わえた。
というわけで、包丁研ぎメディテーションから始まったこの週末は、いろいろリフレッシュしていこうという意欲が湧いてきた。
そういえば、つい先日、ナイフの話を書いていたことを思い出した。以下は、ツーリングマップルメルマガからの転載。
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vol.11 キャンプ用具について ナイフ
キャンプではキャンプならではのいろいろな装備を持参するわけだが、振り返ってみると、いろいろ試行錯誤したり、こだわったりして、様々な道具を試してきた。今回はそんな中から、ナイフを紹介してみよう。
この10年くらいは、キャンプツーリングの時に持っていくナイフは、レザーマンの小型のツールナイフとAitorというスペイン製のアーミーナイフの2本で落ち着いている。
レザーマンのほうはナイフというよりも折りたたみ式のプライヤーがメインの万能工具のようなもので、これはキャンプツーリングに限らず、ツーリングの際にはいつも持参する。とくに、ボルトが緩んだときに、すぐに取り出せて応急に締め込んだりできるので、とても重宝している。掌にすっぽり収まるサイズなので、ウエストバックのいちばん外側のポケットに入れていたりしても邪魔にならない。これに付属しているナイフはブレードが40mmほどなので、ナイフとしての機能は今ひとつで、あまり切れ味も良くないので、調理用にはほとんど使わない。
Aitorはスペイン軍の標準装備になっているアーミーナイフとスプーン、フォークのカトラリーがセットになったもので、これはスイスアーミーナイフなどと比べるとかなり大型で、ブレードは120mmあって、ふつうに包丁のように使える。グリップは柔らかめのプラスチックにチャッカリングが入っているので、濡れた手で握っても滑りにくく、とても重宝だ。
レザーマンとAitorの2本があれば、ほとんどこれで用は済んでしまう。
かつては、本格的に調理したり、焚き火に凝っていたりもしたので、ハンティングナイフとして定番のBUCKの「フォールディングハンター」#110やらアイヌのマキリやら、小型のハンドアックスやらと、武器にもなりそうなヘビーデューティなものを持っていたこともあったけれど、キャンピングスタイルがミニマムになるにつれ、それらは持参しなくなった。
キャンピングナイフで定番といえば、先にも挙げたスイスアーミーナイフやオピネルのナイフがあるが、これらは定番といわれるだけあって、たしかにとても使いやすい。
スイスアーミーナイフは、ときどき、何十種類もの機能を持った「チャンピオン」というモデルを使っている人を見かけるけれど、これはとてもナンセンスな選択だ。というのも「チャンピオン」というのは、もともと、「スイスアーミーナイフは、これだけの機能を備えることができるんですよ」と店頭でデモンストレーションするために作られたものだからだ。キャンプライフの場面では使わない機能満載で、ただの重くて使いにくいナイフでしかない。
ぼくがよく使っていたのは「キャンパー」というモデルで、大小のブレードと缶切り、栓抜き、コルク抜きがついていて、栓抜きの先端でマイナスねじが回せるもの。この程度で、ほとんどの場面に対応できる。これならポケットに入れておいても邪魔にならないし、Oリングがついているので、細引きなどを通して、首からぶら下げたり、キーフォルダーとしても使える。
オピネルのナイフは、円筒形の木製のグリップに折りたたみ式のブレードがついただけのシンプルなナイフだけれど、とても安価で(40年前は600円くらいだったけれど、今は1200円くらいからラインナップされている)、気がねなく、ラフに使えるのがいい。昔のヨーロッパ映画では、パンやチーズを切ったり、ジャムをパンに塗ったりする場面でよく登場していた。
グリップが軽く柔らかい木なので、握った感触が自然で、とても使いやすい。昔はカーボンスチールのブレードしかなかったが、今ではステンレススチールのブレードのモデルも出ているので、サビを気にせず使うことができる。個人的には、柔らかめで、簡単にタッチアップするだけで切れ味が蘇るカーボンブレードのほうが好みだが。
ナイフといえば、BUCK#110には忘れられない思い出がある。
秋田の山奥の沢で、釣りの撮影をしていたときに、釣り上げたヤマメをさばくのに、このナイフを使って、そのまま岩の上に置き忘れてしまった。そのまま宿に戻って、ナイフを忘れたことに気がついたのは夜中だった。その晩は強烈な雷雨で、川も増水していた。これでは、あのナイフは下流に流されて、瓦礫に埋まってしまっただろうなと諦めた。このナイフは、初めて手に入れた本格的なハンティングナイフで、キャンプのときは専用のレザーのシースに入れて肌身離さずいたので、大切な相方を失ったようでとても残念だった。
翌日、宿を後にして、林道を走りながら、ときどき、眼下に流れる沢を見下ろしていた。「上から流されたとしたら、ちょうど流れ着くのはこのあたりかな」と、沢の湾曲部を見てそんなことを思った瞬間、何かがキラッと光った。バイクを止めて、少し戻って同じ位置から見ると、何かが光を反射しているのが見える。
なぜか、自分のナイフに違いないと思い、ザイルを取り出してガードレールに結び、懸垂下降で沢まで降りた。そして、上から光が見えたあたりを探すと、まさに、昨日置き忘れたナイフがそこにあった。
愛着のあるものには魂が宿るなんていわれ、それを付喪神と言ったりするが、まさにこのナイフには付喪神が宿っているのだと思う。
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