筆者は"ニューヨーカー"誌や"ナショナルジオグラフィック"誌に寄稿するライター。仕事柄、辺境地域でのフィールドワークも多い彼のところに、ホンジュラスのモスキティアと呼ばれる最奥部の密林中にあるとされる幻の『シウダー・ブランカ = 白い都市』の探検隊に加わらないかというオファーが舞い込む。
その探検行はナショナルジオグラフィックで発表されるが、それをベースに新たに書き起こされたのが本書。
この21世紀のITの時代に、大航海時代を彷彿させるような探検テーマが残されているなどと誰も思わない。著者も同じで、はじめは眉唾ものと思っている。しかし、独自に調査するうちに、「そこには何か途方もないものがある」と確信していく。
そして、「何か」の存在を決定づけたのは、まさに現代的ともいえる最先端技術だった。
「探検」や「冒険」といった単語は、高度なネットワークが発達した現代ではいちばん風化してしまった言葉のように思っていた。しかし、過酷な自然環境の中で困難な作業をこなし、新たな知見を世界にもたらすという「本物の探検・冒険」が、まだ残されていることが嬉しくなる。
ぼく自身がハイテクを使って古の人たちが残したメッセージを読み解くことをライフワークとしていることもあって、「ライダー装置」と呼ばれるレーザー探査装置を使って地表探査するくだりはとてもスリリングに感じる。また、最初にこの探検隊を組織したスティーヴ・エルキンスは、映画用撮影機材のレンタル事業で財を成した人物で、以前から『白い都市』の伝説に魅了されていた。その人物像は、トロイアを発見したシュリーマンに重なる(シュリーマンが幼いときに『ホメロス』を読んで、トロイアが実在することを確信し、長じてそれを実証したという話は、今ではシュリーマンの過大な脚色だということはわかっているが、それでも素朴なインスピレーションが歴史的な発見につながるというモチーフには心を惹かれる)。
2016年末の段階で、発掘はまだ端緒についたばかりで、広大な遺跡の殆どは手付かずのままだ。それでも、南米の古代・中世史の謎を解き明かす画期的な知見を次々にもたらしている。
また、本書の後半、プレストンはこの発見を歴史と突き合わせて、鋭く文明史に切り込んでいく。そうした文明史的視点は、彼がニューヨーカーやナショナルジオグラフィックというエンタープライズに富んだメディアの仕事を通して血肉としたものだろう。
彼は、主に、ジャレ・ド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』を南米史のテクストとして使っているが、ダイアモンドが語りきれなかった南米史の細部まで切り込んでいる。その意味で、近年立て続けに出版されている人類史とそれに関わる文明史の良書(ダニエル・リーバーマン『人体600万年史』、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』、そしてジャレド・ダイアモンドの一連の著作)に肩を並べている。
今、ぼくは、長年温めてきた企画を多面的に展開しようとしているのだが、それも単なる歴史検証+探検(探索)ドキュメンタリーではなく、こうした文明史の系譜につながるものにしたいと考えている。
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