人生はあまりにも短いから、ぼんやりしていたらあっという間に過ぎ去ってしまう。それも一つの真理だ。そして、何か目標を掲げ、それに向かって邁進する人生は充実した人生だろう。
でも、ときには、ふと立ち止まって自然の時の流れを感じてみることも大切だ。
毎年、若狭の宿「PAMCO湖上館」のご主人、田辺一彦さんから名産の梅が送られてくる。5kgの大ぶりの青梅が入ったダンボールを開けると、部屋中に涼しい香りが立ち込める。この香りが、暑い夏を迎える直前のしっとりとした季節にあることを実感させてくれる。そして、鬱陶しい梅雨が、慈雨をもたらす大切な季節であることを思い出す。
今年も、ちょうど10日前に若狭の青梅が届き、さっそく梅シロップと梅酒を仕込んだ。梅干しは、まだ去年の分が梅酢ともども残っているので、今年は仕込まず、その分は料理好きな仕事仲間の女性におすそ分けした。ちなみに、彼女は沖縄の黒糖と合わせた梅シロップを仕込んだ。
若狭から届いた当日に仕込んだ梅は、10日経って、梅の実から染みだしたエキスに氷砂糖がほとんど溶けて、皺々の実がガラス瓶の上に浮かんでいる。
この10日、毎日二三回、瓶を逆さにして、梅の実が均等にシロップに浸かるようにしてきたが、その際に、少しずつ氷砂糖が溶け、梅の実が痩せてくるのがわかる。二月に梅の花が咲き、蜂が受粉させると、花弁を落として小さな小さな実をつける。それが3ヶ月あまりかけて大地の滋養と太陽の光を蓄えて梅の実になる。そうして時間をかけて結んだ実から、蓄えられた滋養を取り出すためには、焦ってはいけない。じっくりと見守りながら、滋養が滲み出してくるのを見守ってやらなければならない。
じれったいようだが、この時間が楽しくもあり、また自然のリズムを思い出させてくれる。
この数ヶ月、なかなか結果に結びつかない仕事があったり、あるいは、集中して取り組んだのに、雲に手を突っ込むように不毛で虚しい思いを味わわされることがあった。
だけど、梅と向き合っていると、焦らずに待ちながら梅の実をゆっくり撹拌するように、プロジェクトがスタートする時に備えて少しずつ準備を整えておくことこそが大切なんだと思える。真夏が訪れる前に梅雨があるように、今を焦らず、ここでじっくりと知識を仕込んで思考を寝かしておけば、もうすぐそれをフルに活用できる時が来る。
もう一月すれば、梅シロップは飲み頃となる。炭酸で10倍くらいに割って飲むと、真夏の暑さを和らげてくれるとびきり爽やかな飲み物になる。梅酒は、ちょうど梅の花が咲いて実を結ぶのと同じ3ヶ月くらいから飲み頃になる。
ガラス瓶に満タンの梅シロップと梅酒があると、夏を迎えるのが、また楽しみになる。
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