今日は、午後の一番暑い時間帯に、近所の公園の森の中にiPadを持って出掛けた。
故人となってしまったアウトドアの大先輩、芦沢一洋さんは『アーバンアウトドアライフ』という著書の中で、しばしば近所の公園で原稿を書くと記している。デイパックに飲み物を入れたテルモスと原稿用紙、筆記具を入れて、木陰のベンチに腰掛け、鳥の囀りと木々を揺らす風の音をBGMに、のんびり文章を練る。
山と渓谷編集部に在籍している頃、芦沢さんがアートディレクターをされていたこともあって、ときどき、環八近くの自宅にお邪魔した。晴れた日は、気持ちのいい木立に囲まれた庭にキャンプ用のテーブルを出して、そこを書斎として仕事をされていた。
『アーバンアウトドアライフ』も、名訳で知られる『遊歩大全』も、根っから自然が好きな芦沢さんが、風や木漏れ日や鳥の囀りに囲まれ、リラックスしながら書かれたのだなと思い、心地良い表現の秘密を知ったような気がした。
そんな大先輩のことを思い出しながら、キーボードを打っていると、真近に芦沢さんがいて、「何を書いているんだい?」と覗き込んできそうな気がする。
芦沢さんが今でも存命だったら、いったいどんなものを森に持って行って、原稿を書いているだろう?
地味なウールのカッターシャツに大きなキスリングを背負い、足元はニッカボッカに脚絆といった、垢抜けない体育会系ノリの社会人登山が全盛期の頃、洒落たアメリカンバックパッキングの世界を日本に紹介し、さらにフライフィッシングを伝えた人だから、きっと、今でも最先端のギアを揃え、ファッショナブルなスタイルを見せてくれただろう。
雨上がりの森は湿気が高そうに思われるが、木々や土がちょうど良く湿度を吸収し、じんわりと気化させていくので、しっとりした霊気に包まれているように感じられる。
昨日は、釜蓋朔日だったが、森を愛した芦沢さんの霊が、山から降りて都内へ向かう途中に、この森でちょっと寄り道していたのかもしれない。
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