あれは、小学校4年生か5年生の夏休みだった。図書館から中国の奇譚集を借りてきて、一人部屋の中で食い入るようにページをめくっていた。
「墓掘り女」というエピソードに差しかかって、そのまま読み進めはじめたが、途中から背筋が寒くなって、昔の日本家屋の薄暗い部屋の中にいるのが怖くなってきた。それでも話の続きが読みたくて、表に出て、魂が蒸発してしまいそうな炎天下でこれを読んだ。
帽子も被らず真夏の日差しに焼かれていても、暑いどころか、物語の怖さに震えていた。
今にして思えば、ステロタイプともいえるような話なのだが、初めて読んだ大人向けに書かれた怪談話は、二、三日、夜のトイレに一人で行けないくらいの迫力があった。
iPadを手に入れて、さっそくブックリーダーとして使い始め、とりあえずは「青空文庫」から片っぱしからダウンロードして、電車に乗っている時間や手持ち無沙汰な時間に、気ままに開いているのだが、何気なくダウンロードした一冊に、あの夏休みにぼくの背筋を寒くした奇譚集を見つけ、一気にあの時の様子が蘇ってきた。
村に死人が出て、埋葬されると…昔の中国なので土葬だった…夜中に墓が掘り起こされ、死体の肉が食い荒らされているという事件が続いた。
ある日、村にまた死者が出て、埋葬された晩、村の若者達は墓荒しを捕まえようと墓地のまわりに隠れていた。夜半、怪しい影が埋葬されたばかりの墓に近づき、まだ柔らかい土を掘り起こし始めた。
隠れていた若者たちは、「それっ!」とその影に飛びかかった。若者たちに捕らえられたのは、村一番の美貌で若者たちの憧れだった若い娘だった。
簡単に紹介するとそんな話だ。
怪談話が子供時代を思い出させてほのぼのするというのも不思議なものだが、この話を電子ブックリーダーという新しいデバイスの中に見つけたとき、ずっと会わなかった幼なじみに40年ぶりに再会して、互いに変わらない部分と劇的に変わった部分を見つけて、懐かしさと同時に、重ねてきた月日の大きさを実感させられたような気がした。
電子書籍については、いろいろ喧しいけれど、手に入りにくくなった昔の作品など、コストがかからない電子書籍として、どんどん復刻してほしいと思う。
個人的には、単に紙の書籍と同じようなインターフェースではなく、動画やリンクを折り込み、またデバイスが持つセンサーを活用して様々な動きを持ったコンテンツとして電子書籍を企画しているが、古典などは、余計なエフェクトなしに、紙の本に近い形で読めるだけでも十分満足できる。
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