遠い遠い南の島に育った、大きな大きな杉の木から削り出された「木の卵」をもらった。
静かなヒーリングスタジオの中で、みんなが車座になっている輪の一角で、人なつこい笑顔を浮かべて話の聞き役をしながら、 使い古した切り出しナイフを握り、木を削っている一人の男。
見たそのまま『木削り』。
「彫刻」といって力んだりせず、ただひたすら一本の切り出しナイフで木の肌を削っていく……。そのカリカリという乾いた音が、 話の間合いにリズムを刻むように、心地よく漂っている。
滝本ヨウさんは、若い頃にアメリカに渡り、向こうの大学で建築を学び、都市計画の立案などで目の回るような忙しい日々を送っていた。
ある日、気がつくと、心が疲れ果てていた。
不眠症が重なって、仕事も手につかず、絶望的になっていたとき、友人からクリスマスプレゼントにと、切り出しナイフをもらった。 それで、何気なく木を削りはじめると、故郷の熊野で子供時代に木を削った思い出が蘇ってきた。
その時から、ヨウさんは、木削りの先導者となった。
みんなが話に盛り上がっている中に、遅れてひょっこりと入っていったぼくに、ヨウさんは、「はい、これ」と、 さりげなくその木の卵を手渡してくれた。
「今日、ここに来たみんなに一つずつあげてるの。だから、あなたにも、これ」
ほんのりと、だけれどしっかりとした杉の香り。そして、軟らかくて暖かい肌触り。手にした瞬間から、離せなくなってしまった。
手に握っていると、そこから香りが立って、部屋中に森の精気が満ちてくる。
元は、南の島の主のような巨木だった、その一部。
握ると、ちょうどぼくの手の中に隠れてしまうこの小さな卵は、緻密なその年輪を数えてみたら、41年分あった。元の巨木は、 いったい何本の年輪を刻んでいたのだろう……。
素敵な話じゃーありませんか。
投稿情報: go | 2009/03/18 18:29
>明かりさん
コメントありがとうございます。
この木の卵を掌で包んでいると、なぜかディケンズのクリスマスキャロルを思い出しました。
冷えて固まっていたスクルージの心が、最後の甥の家のクリスマスの晩餐で和むシーン……あの暖かくて柔らかな雰囲気が思い浮かびました。
投稿情報: uchida | 2009/03/18 08:25
この木の卵を手の上にのせられたら、
きっと、心がとろけそうになると思います。
投稿情報: 明かり | 2009/03/17 22:23