麦秋を迎えた里と中腹の紅葉、そして白く染まった稜線。鮮やかな「三段染め」を見せる白馬三山。
この稜線で悲劇が起こっていたとは思えない表情
先週、11日から13日にかけて、取材で長野県の白馬村に行ってきました。
以前にこのblogで紹介した「風切り地蔵」
に関する調査とテレビ収録が主で、前回のblogに情報を書き込んでくださったモリさんや地元の歴史や山に詳しい方々にたくさんお会いして、
とても面白い取材となりました。
風切り地蔵に関しては、またもう少し取材を進めた時点でご紹介しようと思っています。今回は、
ちょうど白馬に向かう数日前に起こった大量遭難事故について少し触れてみたいと思います。
7日の午後、太平洋にあった低気圧が台風並みに発達して、海や山は大荒れの天気となりました。このとき、
九州からやってきた7人のパーティが白馬岳直下の稜線で激しいブリザードに巻き込まれ、4人が凍死するという悲劇が起きてしまいました。
八方尾根・黒菱平から白馬三山。ここまで来ると、厳しい冬山の表情をしていることがよくわかる
じつは 、来月に風切り地蔵がある小蓮華山という白馬岳に連なる山の稜線に登る予定で、
その計画を練るのも今回のぼくの白馬行きの目的だったのですが、この遭難事故が話の引き合いに出て、
いかに本格的な冬山に入る直前のこの山域が危ないかという話になりました。
白馬岳で起きた遭難事故は、地元の人にとっては、避けられたはずの初歩的な判断ミスの数々と、この時期の白馬岳周辺の「天候生理」
を知らないことによる多重ミスと映ったようです。
まず初歩的なミスとしては、ルートの設定に無理があったこと。
ふつう、白馬岳方面に登る際には、東側の白馬大雪渓や八方尾根、栂池などのルートを使います。
こちらはアプローチが3~4時間と比較的短く、悪天候に見舞われた際にも、そのまま撤退すればすぐに安全地帯まで下りることができます。
ところが、遭難した九州のパーティが選んだのは、
普通は下山ルートに使うことはあっても登りには使わない西の祖母谷からのルートでした。
こちらは白馬岳に出るまでに10時間以上のアプローチがあり、吹きっさらしの稜線を延々と辿らなければなりません。
これを一日で登り切るには、相当な体力がいります。そして、このルートでは他に派生ルートがなくエスケープができません。
九州のパーティは、この長い祖母谷ルートを登りはじめ、ずっと雨に打たれていました。そして、
稜線を辿るうちに激しいブリザードとなって、冬山装備も持たなかったため、次々と体温を奪われて、身動きできなくなっていきました。
結局、白馬岳の山小屋までたどり着いたのは、ガイドとそのアシスタント、そしてお客さんのうちの一人だけでした。
なんとか頑張って白馬岳直下までたどり着きながら力尽きた二人は、山小屋からわずか400mの位置で遺体が発見されました。
じつは、この日、白馬岳周辺では他にも遭難寸前まで行って、山小屋関係者に助けられた登山者がたくさんいたそうです。
白馬岳周辺の稜線は、難しいロッククライミングを強いられるような場所はありませんが、今回のように先に雨が降って、
急速に気温が下がってブリザードになると、アイゼンやピッケルでも歯が立たないほどに地面がクラストしてしまうそうです。そして、
この稜線で滑落したら、そのまま谷底まで数百メートルは遮るものもなく、転落することになります。
麓、白馬の塩の道は、穏やかな秋の雰囲気に包まれて……
「10月、11月は、ほんとに怖いんですよ。かえってその後のしっかり雪がついた季節のほうが、安心して登れるんです」
と、地元の山に詳しい人は言います。
白馬岳といえば、北アルプスの中でも、ゆったりした山容でコースも険しくなくて人気ですが、一度、牙を剥けば、
紛れもない3000mクラスの本格山岳の厳しさを見せつけてきます。
自然と対するときは、常に謙虚で畏れを持ってあたらなければならないと思い知らされた事件でした。
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