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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.272
2023年10月19日号
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◆今回の内容
○約束の地・憎しみの地
・アブラハムの宗教
・三宗教の確執
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約束の地・憎しみの地
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この10月7日にはじまったハマスによるイスラエルへの攻撃は、まさに寝耳に水のものでした。SNSを中心に、民間人が虐殺されたり拉致されて人質にされる様子、それに無数のミサイルが飛来して、それをイスラエルの防空システム「アイアンドーム」が片っ端から撃ち落としていく様子……リアルタイムで流されるそんな光景に凍りつきました。
戦場の生々しい光景がTVメディアで流された最初はベトナム戦争で、その後、湾岸戦争や911でも現場の様子をその空気感とともに伝える報道がなされました。しかし、ネット時代の今は、報道機関よりも、現場にいる個人の目に写った様子が流されるので、その迫真性は次元が違います。
昨年からはじまったロシアのウクライナ侵攻は、事前にその危険性を予感させる情報が様々にあったのに対して、今回のハマスの攻撃は、イスラエルの情報機関でさえそれを感知できなかったほど突然の出来事であり、だからこそ惨状がそのまま流され、それがあたかも今目の前で起こっていることのように感じさせました。
私は先月末から体調を崩し、家で休養しながら、ふとキリスト教史を復習してみようと思い立って、関連するテキストを読んでいました。同じ「アブラハムの宗教」であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教という三大一神教の成り立ちと、それぞれの確執、さらに惨たらしい相互の殺し合いの背景にいったい何があるのかなどと考えていたところに、この事件がまるでシンクロするように起こったので、なおさら驚かされたのでした。
今の日本人の大多数、とくに若い世代の人たちにとっては、こうしたパレスチナにおける紛争というのは、あまり馴染みがないかもしれません。これは、遠い土地での出来事であり、また宗教対立とその背後にある国際関係などが複雑で、身近に感じられないのも仕方ありません。
しかし、私やさらに上の世代にとっては、パレスチナ問題は、かなり身近に感じられるのです。というのも、1970年代から80年代はじめにかけてのアラブゲリラのテロが頻発していた時代、日本赤軍(その前身も含めて)がPLO(パレスチナ解放機構)やPFLP(パレスチナ解放人民戦線)との連帯を掲げて対イスラエルテロを何度も起こしていた記憶が、今でも鮮明だからです。
駐日イスラエル大使が、今回のハマスの攻撃に関してのTBSの報道にクレームを入れました。それは、ジャーナリストの重信メイをコメンテーターとして呼んだことに対するもので、重信メイの母親である重信房子が日本赤軍の最高幹部でPFLPに参加し、テルアビブ空港乱射事件やハーグ事件などにも関与していたことと、レバノン生まれで父親がアラブ人であるメイ自身がパレスチナ寄りの見解を述べたからでした。パレスチナ問題と日本赤軍の関わりを知っていれば、イスラエル大使の心情もそれなりに理解できます。
パレスチナ問題というのは、領土問題であると同時に、「アブラハムの宗教」の三宗教が共通とする聖地に絡む問題でもあり、さらに歴史的な経緯が幾重にも重なっているので、とくにそうしたことに馴染みが薄い我々日本人には理解し辛い問題であることはたしかです。
しかし、難しいからと知らぬ顔はできません。日本にもやはり領土問題はありますし、日本という国が成り立ってきた過程の中にも、信仰や思想信条、聖地を巡る対立もあったわけですし、今、世界中でエスニシティやナショナリズムに関わる様々な問題が噴出している中で、日本がいつ紛争に巻き込まれるかもわからないのですから。
そうした危機感も込めて、完全に理解はできなくても、パレスチナ問題を少しでも紐解く鍵となればと、今回は「アブラハムの宗教」の三宗教間の対立の遠因について考えてみたいと思います。
●アブラハムの宗教●
まず、聖地の問題ですが、パレスチナの聖地でもっとも重要なのはエルサレムです。元々は殺風景な岩山に囲まれた砂漠の不毛の土地が、なぜ「アブラハムの宗教」にとって重要な聖地になったのか、その成り立ちとこの聖地を巡る攻防については、この講座の第128回『エルサレムに見る「聖地性」』で詳述しました。今回のハマスとイスラエルの戦争を機に、その全文をサイトで公開していますので、そちらを参照ください。https://obtweb.typepad.jp/obt/2023/10/israel_hamas.html
ここでは、まず「アブラハムの宗教」の由来から紐解いていきましょう。
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