マルクスが『資本論』を執筆するにあたって、20年あまりも大英図書館に通い詰めたことは有名だけれど、コリン・ウィルソンも処女作の『アウトサイダー』執筆のために、路上生活をしながら大英図書館に通い詰めていた。
マルクスやウィルソンは、既製のアカデミズムから外れたところで、独自の見解を生み出して、新しい研究分野を切り開いた。それは、大英図書館という「知の宝庫」の中にあって、様々な「知」を渉猟し、吸収していったことの結果といえる。
ウィルソンは、私がいちばん好きな作家だが、彼のような知性は、これからGPTによって「知」の海を渉猟する人たちの中から次々に生まれてくるような気がする。なにしろ、その「知」の海は、大英図書館よりも遥かに広く深く広がっているのだから。
AIについての話題としては、GPTのようなAIが創発を迎えてAGIへと進化する可能性についてということが、今いちばんホットだけれど、それ以前に、GPTというまったく新しいツールを使いこなすことで、人間の知性に創発が起こることのほうが早い気がする。
ウィルソンは、後半生にいわゆる「超常現象」の研究に力を入れて、20万件にものぼる事例を精査した。そして、彼は次のような言葉を残している。「世にいわれる超常現象といわれるものの99%はでっちあげか勘違いである。残りの1%のうちの99%は今の科学で説明がつく自然現象である。残りの1%のうちの99%は人間の意識が生み出した幻として説明がつく。そして、残りの1%は、人間が秘めた未知の力や「霊魂」や「魂」といった外在的なものを想定しないと説明がつかない」。
ウィルソン個人の力で処理できるデータの量というのは、今考えれば微々たるものにすぎなかったともいえる。LLM(大規模言語モデル)では、何千億、何兆というデータをクロールする。たとえば、「超常現象」というテーマでコーパスを設計したとしたら、どのようなアウトカムがもたらされるだろうか?
ウィルソンが今生きていたら、情熱的にGPTを使って情報世界を渉猟しただろうなと思う。もちろん、超常現象などに限ったことではなく。
でも、第二、第三のウィルソンの登場も間近だろう。
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