本格的なランナーではないけれど、昔は本格的に登山や二輪のオフロードレースに取り組んでいたので、トレーニングにランニングは取り入れていた。今でも、いろいろとアウトドアアクティビティを楽しんだり、ツリーイングのインストラクターとして体力を維持しておかなければならないので、週に3,4日のランニングは欠かさない。
以前は分厚いクッションソールのシューズを使っていたが、しょっちゅう故障ばかりしていた。ハードソールの登山靴に慣れていたせいか、自然に膝溜めで衝撃を吸収する走り方になってしまい、下手にクッション性のいいソールの靴を履くと、リズムが狂って膝や足首の筋を痛めてしまう。それでも、「アスファルトの上を走るなら、クッション性のいいソールのシューズを履かなければいけない」という神話を信じて、エアソールやら衝撃吸収ジェルやらが仕込まれたシューズで走っては足を痛めていた。
ところが、3年前、今やランナーのバイブルともなっているクリストファー・マクドゥガルの"Born to Run"(http://obtweb.typepad.jp/obt/2010/05/borntorun.html) と出会い、ハイテクエルゴノミックデザインのシューズこそがランナーの足の故障の原因だと知って、故障とは縁がなくなった。
過剰なクッション性のソールによって、走り方のバランズが崩れ、それが様々な故障の原因となっているとマクドゥーガルは指摘する。メキシコの荒野を信じられない距離移動するタラウマラ族はペラペラのサンダルを履いて、ガレ場でも砂地でも平気で走り、まったく足の故障がないのだと。
本書はランニング界に大きな波紋をもたらし、ベアフット(裸足)ランニングムーブメントが生まれた。また、シューズ業界も刺激を受けて、より裸足に近いナチュラルな感覚の「ベアフットシューズ」が各社からラインナップされるようになった。
ぼくが"Born to Run"を読んだ当時は、まだベアフット系のシューズは出ていなかったので、とりあえず手元にあったMerrelのマリンシューズ(上記リンクの本と一緒に写っている黄色いシューズ)を履いてランニングに出かけてみた。
それまでの「常識」からすれば、こんなソールのペラペラのシューズでランニングするなんてありえないことだった。
ところが、そんなイレギュラーなシューズで走ってみると、これが信じられないくらい快適だった。飛び跳ねるように走ると着地の衝撃が大きくなるので、自然にストライドは狭まり、膝溜めで、地面に張り付いたようにペタペタ走るスタイルになる。これだと、分厚いクッションに前進力を奪われることもなく、気持よく前に進んでいく。
このスタイルで走り始めてみると、それまではトレーニングの一つとしてのランニングが苦痛だったのが、走ることが楽しくなった。
それから、ぼくのランニングシューズは、ずっとマリンシューズで定着していたのだけれど、これの唯一の欠点は、シューズのフォルムが欧米人向けのタイトなもので、いわゆる「甲高ダン広」の典型的な日本人的偏平足のぼくの足先には、窮屈なことだった。それでも、分厚いクッションソールのシューズに戻るのは嫌で、愛用していたが、つま先は外反母趾気味になり、親指の爪は何度も剥がれ、中指と薬指には醜い水疱がいつもできていた。
カジュアルシューズではKEENの製品が性に合っていて、これは幅広のフォルムでぼくの足型に合っていた。KEENは元々アウトドアサンダルから始まったメーカーなので、シューズもストレスフリーのフォルムを標榜していた。そのコンセプトが、ぼくの足にちょうどマッチしていたというわけだ。
KEENと同じようなフォルムで、ベアフット系でも「ファイブフィンガー」のような過激なものでなくてオーソドックスなシューズがないものかと探していたら、友人に紹介されたのが、今回紹介する「アルトラ」というメーカーのシューズだった。
これは、今、ピースランプロジェクトで、オーストラリアとニュージーランドをランニングで走破中の高繁勝彦さんが愛用しているもの。彼もやはり「甲高ダン広」の日本人足のため、シューズで苦労していたが、アルトラを履き始めてから、つま先の窮屈感から解放されたのだという。
というわけで、ぼくもアルトラのベーシックモデルである"Instinct1.5"を手に入れて、走り始めた。
まず、見た目からしてつま先部分が幅広でゆったりしていて、ストレスがなさそうだ。実際に履いてみると、五本の指が自由に動いて、格別の開放感がある。アッパーがメッシュ素材なのはこれまで使っていたマリンシューズと同じだか、アルトラのほうは足指間に隙間があるので、風の通り具合がまったく違う。これなら熱が篭って豆ができることもなさそうだ。
ソールは"ZERO DROP"と呼ばれるつま先から踵までがフラットシェイプなデザインで、サンダルを履いた時と同じように、静止状態では直立したナチュラルな姿勢になる。トレイルランニングにも対応する仕様なので、ベアフット系とはいっても最低限のプロテクション性を持たせたソール構造になっている。ミッドレイヤーとクッションはデュアルレイヤーのEVA素材で、アウトソールは"Foot Pod"と呼ばれる柔らかいが耐久性の高いラバーが使われている。ソールの厚みはトータルで22mmほどなのでベアフットに近いナチュラルな感覚だ。
はじめは、付属のインナーソールを入れて走ってみたが、若干フワフワ感が出てしまうのと、踵の深さが浅くなって、ホールドが足りなくなる感じがして、すぐに取り外してしまった。その外したインナーソールを見ると、五本の足指とつま先全体が凹んでいて、フォアフットでしっかり地面を蹴って走れていることが確認できた。
シューズは軽快で、フィット感も良く、なにより足指が自由になったので、今まで以上にランニングが楽しくなった。
高繁氏やぼくのように、典型的な日本人足のランナーには、絶対お勧めのシューズだ。
サイドビューから"ZERO DROP"のフラットシェイプなソール形状がよくわかる
アウトソールは典型的なベアフット系。足指を広げて、地面をしっかり掴んで蹴る感覚が指にしっかりと伝わる
ヒール部分には反射率の高いリフレクターテープが縫い込まれていて、夜間の被視認性が高い安全設計
アッパーのメッシュはクイックドライメッシュに通気性を妨げないバリスティックのハイブリッド
フロントのソールはつま先上部までき巻き込まれていて、突っかかりにくい構造。ここにもリフレクターテープが使われていて、前方からの被視認性も高い
アシンメトリックなシューレースパネルと適度な伸縮性を持ったシューレースで、フイット性が高い。パネルを縫いつけてあるステッチは手間がかかるオーバーキャスティング(裁ち目かがり)の二重縫いでフレキシブルで引張強度が高い
走った後のインナーソルを取り出してみると、しっかりフォアフットで地面を掴んでいることがわかる
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