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◆今週のメニュー
1 聖地に漂う「雰囲気」
ゲニウス・ロキと第一行
女神の聖地・花の窟
女神の聖地・斎場御嶽と久高島
熊野と琉球との繋がり
2 コラム
シンクロニシティ
3 お知らせ
『祈りの風景』刊行
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聖地に漂う「雰囲気」
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【ゲニウス・ロキと第一行(だいいちぎょう)】
前回は「聖地とは何か」というテーマで、聖地が生み出される要
素としての自然条件と人為的条件があることを紹介しました。
自然条件とは、ある場所でそこに人が身を置くことによって、癒
しのような効果を感じたり、外部から適度に隔離された雰囲気が安
心感をもたらしたり、あるいは地下から湧き上がるガスや電磁波な
どの作用で霊的なビジョンを見るといった事象が起きて、それをき
っかけに、その場所が聖別されていくというその場所に固有の条件
のことです。広く見れば、風水における都市計画なども、こうした
自然条件を利用したものです。
人為的条件…人工的聖地といっても構わないのですが…は、人間
が作り出したある場所にまつわる神話や伝説が定着し、そこに人が
集まるようになって聖地が生み出されるといった、人間の意図に関
わる条件のことでした。
ですが、人為的に作り出された聖地といっても、まったくランダ
ムにある場所を選んで、そこを聖地として作り上げるといったケー
スはほとんどありません。そもそも特定の自然条件があって聖地と
して人に受け入れられやすい雰囲気を持っていた場所に、人為的な
神話や伝説が付与されることによって、その場の聖地性が増すとい
ったパターンにあてはまることがほとんどです。
ですから、すべての聖地は大前提として、聖地にふさわしい自然
的条件を備えているとも言えます。そうした場所が持つ力に人間が
感応して、そこを特別な場所としてみなすようになる。そして、そ
の場所に多くの人が集まるようになると、人の意識がそこに重層し
てゆき、それが聖地性を高めることに繋がる。そうした人と大地と
の相互作用によって聖地は形作られていると言えます。
人に、ある場所を他とは違うと感じさせるもの、それを一言で表
すとすれば、古代ローマから使われてきた「ゲニウス・ロキ」とい
う言葉がもっとも適当かもしれません。「ゲニウス」とは「土地」
のこと、「ロキ」とは「霊」、合わせて「地霊」と訳されます。
日本には「地縛霊」といった言葉もありますが、心霊現象的な土
地に纏わりついた霊という意味の地縛霊と地霊とは意味が違います。
地霊は、漠然とした気配のようなもの、土地固有の雰囲気といった
もので、そこには怨念めいた意志などは存在しません。地霊そのも
のには何の意図も色もなく、ただ地霊と対峙した人間の側の受け止
め方次第で、様々に感じられるようなものです。
古代ローマ時代、当時は先進的で洗練されたローマとその周辺の
都市に住む若者たちが兵士として、まだ未開の地であった北ヨーロ
ッパや東ヨーロッパ、北アフリカなどに派遣され、その辺境の地で、
都市住民としては感じたことのない土地から立ち上る気配と出会い、
これをゲニウス・ロキと名づけたのです。
当時の辺境地帯には、ケルトやそれ以前の古い信仰の痕跡があち
こちに残り、アニミスティックな儀式も行われていました。大地に
ひれ伏す祈りや、太陽や星を崇める祭り、そして数々の妖精伝説な
どと出会い、そこで長く暮らすうちに、ローマの兵士たちも次第に
ゲニウス・ロキに敏感になっていきました。
宗教学者の鎌田東二は、ゲニウス・ロキのように土地から立ち上
って人に影響を与える「何か」を「第一行」と名づけています。あ
る場所に人間が立ったときに、第六感で感知される雰囲気。それは
具体的な言葉で表現はできないけれど、それによってインスピレー
ションを刺激されてイメージが生み出されていく。第一行は記すこ
とはできないけれど、それによって喚起された第二行、第三行は神
話や伝説であり特殊なシンボルである。そうした第二行、第三行が
生み出されることによって、そこに第一行があることが証明される
ものと定義されます。
ゲニウス・ロキ=地霊という言葉には、どこかまだ土着的でワイル
ドなイメージがありますが、第一行と言えば、もっとマイルドで融
通の効く概念であると言えるでしょう。これから聖地学の論を進め
ていくに当たって、私は、この両方の言葉を使っていきたいと思い
ます。時おり、両方の言葉が入り混じることがあるかもしれません
が、ゲニウス・ロキのほうが土着性が高くかつ湧き立つ雰囲気が強
いもの、第一行のほうがもっと柔軟で、雰囲気そのものよりも立ち
現れてくる神話や伝説などによって雰囲気が掴みやすくなるような
ものと、漠然とでいいので理解しておいてください。
【女神の聖地・花の窟】
では、今回は二つの聖地を例にして、それぞれの共通性から、前
回からのテーマである聖地とは何かということと、前項で紹介した
聖地に湧き立つ「雰囲気」について考察していきたいと思います。
続きはmagmagにて
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