昨日はツリーイングのインストラクターミーティングに参加した。
どんなものでもそうだけれど技術や道具は日進月歩で、とくにアウトドア系のギアというのはそのペースが早いから、できるかぎり現状をフォローしておく必要がある。
アクティビティの主催側としてはこれはとくに重要で、より楽しくより満足感が高いアクティビティに進化させつつ、しかも安全をしっかり確保するために研究と実践の繰り返しが必要だ。
今回はとくに、樹上をトラバースする際に用いるカラビナの選定や、エイト環を使ったラペリングの際のバックアッププルージックが締まってしまったときのために特殊なノットを作る方法、レスキューの際にジョイントしたロープでビレイする際、ジョイント部分をクリアするための新しい方法などを重点的に検討した。
団体として推奨するテクニックを実地で研修しつつ、それぞれの現場での経験から、より素早く的確に出来る方法を意見を出しあって確かめたりと、技術研究の場としてもとても有意義だった…得てしてこういう場面で、斬新な発想から、新しい技術が生まれることもある。今回は推奨する方法では時間がかかりすぎるので、アッセンダーを代用する方法が提案されたり、ダブルロープをシングル使いで昇る方法が試されて、さっそく、それがトラバースやレスキューに使うのに適していることがわかったりした。
そんな中で、今回の講師をつとめたチーフインストラクターのU氏が座学の際に用意してくれた日本フリークライミング協会(JFA)発行のフリーペーパーは、とても参考になるものだった。
ロープを使ってビレイするロッククライミングと基本的にロープクライミングあるツリーイングは共通点が多いので、テクニックやギアの使用法なども参考になるが、この号の事故事例はとくに得られる教訓が多かった。
JFAでは、フリークライマーやクライミングジム向けに、独自に保険商品を開発して販売している。事故が起これば、その経緯についての報告がJFAに上がり、さらには、怪我とその治療の状況、支払われた保険金額などが明らかになる。U氏が持参したのはその報告書だった。
豊富な事例と具体的で詳細な内容は、ありきたりなインシデントレポートと違って、アクシデントが起こった状況をリアルに実感できる。
重傷や死亡事故といったシリアスな事例は案外ベテランに多い。危険な領域まですんなりと達し、些細なケアレスミスからグランドフォール…。ハーネスにロープを結び忘れていたとか、セルフビレイしなかったといった普通に考えればありえない事故が、しばしば起こっていることがわかる。
ロープに体重をあずけて登降するツリーイング(ロープクライミング)では、ロープの結び忘れはありえないが、樹上トラバースの際に単一のビレイだけで動き、その支点が折れてグランドフォールするといったケースはありうる。
昨年からは、樹上にスラックラインを張り、さらにZIPラインで下降するコースを作って体験してもらうスーパーツリーイング(フォレストアドベンチャー)のプログラムも用意しているが、これは樹上で体験者のビレイを掛け替えるので、ケアレスミスにはとくに注意しなければならない。
JFAのレポートでさらに興味深かったのは、クライミングジムでの事故がじつはかなりあるという実態で、これもかなりシリアスなケースがあった。とくに、ベテランとビギナーが混在している状況で、上部のクライマーがフォールして下にいるクライマーに接触したり、マット外にフォールして重傷を負うといった事例もあった。
以前から、ボルダリングでの事故がかなり多いという話はあったし、友人もほんの2mくらいのところからマットに落下して足首を骨折するといった事故を起こしている。データからもボルダリングの事故が多いことがわかる。比較的低い高さからの落下でも、非常に不安定な姿勢をとったまま落ちるため、どこか一点に荷重が集中して重い受傷に至ってしまう。
ツリーイングでは、イベントの最中よりもセッティングの段階で…とくにスーパーツリーイングのような複雑なシステムを組む場合は不安定な場所や体勢で設置作業を行うことが多いので、ボルダリンクと同様のリスクが高いことがわかる。
ボルダリングに関しては、JFAのレポートではクライマーが不安定な体勢にあるときは、フォールに備えて、マットだけではなく他のメンバーがとるべきポジショニングまで図解されているが、ツリーイングでは他のクライマーが直下でサポートすることは不可能だから、すべてはビレイの良し悪しにかかっている。不安定な姿勢でフォールしたときに一本のロープに全体重が掛かかれば、1mの落下でもシリアスな結果に繋がってしまうから、ボルダリングの事例を読んで、複数のビレイを取り、しかもロープが首に巻き付いたりしないように常にポジショニングを気にかけなければならないという基本中の基本の大切さがあらためてわからされた。
このレポートでは、さらに「アクセス問題」として、クライマーがクライミングエリアに立ち入る際に問題となることがまとめられている。許可を得た私有地やオープンな公有地であっても、基本的なマナーが守れなければ、クライマーが締め出される可能性もあり、またクライミング界そのものの品位も問われることになる。それを詳細に洗い出して、マナーや対処法まで解説している。
この「アクセス問題」は、クライミングだけでなく、すべてのアウトドアアクティビティについて言えることで、これも非常に参考になる。
アウトドアアクティビティのガイディングに関わる人はもちろん、アクティビティを楽しむ個人も、ぜひ手に入れて一読してほしい。
正式名は、freefan別冊"安全BOOK2"で、クライミング系のアウトドアショップやクライミングジムに配布されている。freefan編集部に直接申し込んでも、送付してもらえるようだ。http://freeclimb.jp/
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