土曜日の夕方、いつも「レイライントークライブ」でお世話になっている『スペースU』の主催で、『レイラインハンター』出版記念のトークライブを開催した。
会場は、厚木にあるプラネタリウム。当日は、30人あまりの方にお越しいただいた。
プラネタリウムらしく、リクライニングできるゆったりとした椅子で、音響も映像も申し分なかったが、唯一難点は、スライドを投影していると、お客さんの方の様子がまったく見えず、モノローグのようになってしまうこと。それで、少々ディテールに入りすぎて、時間が足らなくなってしまった。
今回のトークライブでは、すでに『レイラインハンター』を読んでくださっていた人が多く、トークの後の質疑応答では、かなり突っ込んだ具体的な質問が多かった。その分、本当は一つ一つの質問に時間をかけて答えたかったのだが、限られた時間で簡単に済まさなければならないのが申しわけなかった。
これまでのトークライブでは、レイラインという「現象」が存在することに純粋に驚くといった反応がほとんどで、質疑応答ではトークの内容に関する質問よりも、デジタルマップで自分が住む周囲をシミュレーションしてほしいというリクエストが圧倒的に多かった(そうした「地図遊び」がレイラインハンティングの本質でもあって、面白いのだが)。
自分が長く続けてきたフィールドワークに興味を持ってもらえるのは、もちろん嬉しいのだが、ぼくの活動を流行りのスピリチュアリズムから捉えられることには、違和感がある。スピリチュアリズムもその本来の意味は、人間の精神の可能性について客観的に探求するもので、その視点には異存ない。だが、これが妙な神秘主義やニューエイジと結びついて語られはじめると、途端に受け入れがたいものになってしまう。
最近は、「パワースポットブーム」とかで、明治神宮の中に湧き出す井戸に大行列ができたり、虱潰しに神社仏閣巡りをする人も多いという。
自分も「聖地」と呼ばれるような場所を長年巡ってきて、それをサイトや本にまとめているわけだが、ぼくの興味は、ある土地が何かの力を秘めていることを確認し、その土地にまつわる歴史や神話との符合、そして人々のその「場所」に対する思いを紐解いていくことにある。聖地を訪ねて、そこで癒されるとかご利益を得たいなどとはまったく思わない。
そもそも、大地から何かの力が湧き出す場所は、地球が自らの営みとして何かを噴出させているのであって、人間にとっていいとか悪いといった次元のものではない。
「パワースポット」に群がる人たちの様子を見ると、それは蜘蛛の糸に取りすがる亡者のようで、薄ら寒いものを感じさせられる。
特別な土地が持つ「雰囲気」とでもいえるようなもの、それは、古代ローマの兵士たちによって『ゲニウス・ロキ』と呼ばれた。日本語にすれば『地霊』となる(心霊の世界でいわれる『地縛霊』などとは違う)。
古代ローマがその版図を北ヨーロッパから北アフリカにまで広げ、周縁部にまで兵士が配置された。彼らは文明社会から、まだケルトなどの古い信仰が息づく辺境にやってきて、そこに得体の知れない「雰囲気」が漂っていることを感じた。彼らは、それをゲニウス=土地、ロキ=霊と呼んで恐れた。
ゲニウス・ロキがとくに色濃く漂う場所は、古代から聖地として崇められてきた場所で、そこでは祭祀が執り行なわれ、時には生贄が捧げられた。ゲニウス・ロキは、人に対して幸福やご利益をもたらすものなどではなく、恐れ多いアンタッチャブルなものだった。
仮に、土地を人間の都合のいいように改変したり、何かをゲニウス・ロキに対して願えば、それに見合った対価を払わなければならない。
建築の世界では、ある場所に建築物を建てるとき、その土地のゲニウス・ロキを乱さないようにするのがセオリーとされる。地鎮祭は、まさに土地に宿るゲニウス・ロキにお伺いを立て、改変することを詫びて、鎮める意味がある。
土地の持つ力、ゲニウス・ロキをリアルに感じていたからこそ、昔の人間たちは、そこを聖地として不可侵の場所とした。また、土地を改変したときには人柱や生贄を捧げて、バランスを取り戻すための埋め合わせをした。
日本の神社も、ほとんどは本質が「祟り神」であり、不可侵の聖地だった。怒れる神を鎮めるために、そこには社が置かれ、人々は、ただひたすらその怒りを鎮めるため、無心に祈りを捧げた。
ただチャラチャラと「パワースポット」でございと、静かな土地に出かけていって、そこを踏み荒らし、一方的に癒しやご利益だけをもぎ取ってくれば、いずれその分のツケを払わされることになる。東洋では陰陽合せてバランスが取れるという。西洋も悪魔がいてこそ神の存在意義がある。物事には両義性があるということを忘れてはいけない。
そもそも、人が楽をしたいと思って地球を改変してきたことが、この星を傷めつけ、病ませてきたのだから、これ以上貪欲に地球からパワーを吸い取ろうなんて思わないで、パワーをお返しするという意識を持たなければならないだろう。
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