ブルース・チャトウィンが旅の相棒として、常に肌身離さず持っていた手帳。パタゴニアでも、 オーストラリアのアボリジナルのテリトリーでも、そして、彼が命を落とす原因となった中国奥地の旅でも、彼は、 この"モグラ革装"と喩えられる手帳に、旅の思いを綴った。
チャトウィンが愛したモールスキンは、イタリアの片田舎で頑固な職人が一つ一つ手作りする伝統工芸品ともいえるようなものだった。 チャトウィンは、いつも自分がモールスキンを買っていたパリ市街の片隅の文房具屋で、モールスキンの職人が亡くなって、 手に入らなくなるという話を聞いて、「ありったけのモールスキンを取り寄せてくれ」と頼む。だが、すでに、工房は売りに出されていて、 その店では手配がつかなかった。
チャトウィンは、残り少なくなったモールスキンのストックを携えて旅に出る。そして……。
この手帳に何かを書きつけるとき、このチャトウィンの逸話が蘇ってくる。
モールスキンは、その後復刻され、チャトウィンの逸話をブランドストーリーとして、世界中で愛される手帳となる。
チャトウィンが使っていた家内工業で作られていた頃のものとは違うだろうが、この手帳を手にとって、そこに文字を書きつけてみると、 その吸い付くような表紙の手触りと、どんな筆記具でも優しく受け止める紙の感触に虜となってしまう。
ぼくは、このモールスキンのもっともプリミティブなモデルともいえるポケットサイズの"クラシカル・ プレーン"を読書メモとして愛用している。
読んだ本の印象的なフレーズをペリカンのロイヤルブルーインクを入れたラミー・アルスターでカリカリと書き付ける。 さらにモンブランのブラウンインクを入れたペリカンの#250で感想や注釈をサラサラと記す。
かなり小さな文字で書き留めてきた一冊をついに使い切った。
30冊あまりの本について書き留めてきたこのモールスキンの一冊は、自分にとってかけがえのないバイブルとなった。
そして、今日から、新しいバイブルを作り始める。
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