それにしても不思議な祭りだ。
神仏が混交した若狭神宮寺の堂の中に、修験者やら咒師(すし=陰陽師)やら法師やらが籠もって般若心経を唱え、 さらに祝詞や不思議な呪文を上げて、神宮寺がたちまち炎上するのではないかと思えるような大松明に堂内で火をつけて、駆け回る。
そして、その火を押し頂き、表に出ると、境内の大護摩に、これまた鉞やら刀、弓やらで四方固めして点火する。
松明に先導されて境内の傍らに湧き出す「阿加井」から汲まれた水が神宮寺の前を流れる遠敷川の支流に沿って、上流へ運ばれていく。
境内に参集した善男善女たちは、おのおの大護摩の残り火を手松明に受けて、清められた水「香水」の後に続いていく。
平日だというのに2500人もの人がこの祭りに参加し、川に並行して長々と火の川がうねって行く。
神宮寺から2kmあまり上流の「鵜の瀬」という淵に達した香水は、ここから赤々とあたりを浮かび上げる護摩と松明の火に照らされ、 鵜の瀬に注ぎ込まれる。このとき、水を注ぎ込む水師や修験者、咒師といった儀式の主役たちは、いずれも白装束に白い頭巾を被り、 顔は白布で覆面している。
今は、この祭りの由来や作法も公になり、こうして観光客を集めているから、その装束や作法が「不思議だなぁ」 といった程度にしか思えないが、これが、まさに「秘儀」として行われていて、たまたまそれに出くわしたとしたら、 見てはいけないものを見てしまったと、しばらく、この光景を思い出して怯えてしまうのではないだろうか。
鵜の瀬から注ぎ込まれた香水は、10日を経て奈良東大寺二月堂下にある「若狭井」にまで達し、そこから汲み上げられて、「お水取り」 の儀式が行われる。
今では、奈良東大寺のお水取りは有名だが、それに先立つこの「お水送り」の儀式が行われていることは、あまり知られていない。 お水取りでは、そのクライマックスシーンとして、大松明を二月堂の中で振り回す「達陀(だったん)」の儀式が有名だが、 単にそれを見学するだけなのに対して、お水送りでは、達陀を見学した後に、その火を手松明にもらい受けて、香水に従っていく文字通り、 祭りに参加できるわけで、より、この祭りの神秘性に自分が近づいていける気がする。
一昨年に参加したときは、ちょうど満月の晩に当たり、月と松明の火の対比がより神秘さを深めていたが、今年は細い下弦の月で、 鮮やかな星空が見え、これもまた壮大なこの祭りのイマジネーションを夜空が掻き立てているようだった。
この祭りは、東大寺二月堂のお水取りと合わせて、インドから渡来した「実忠」が752年に大仏開眼供養に創始したと伝えられている。
実忠という人は、一説にはペルシャ人であるともいわれ、この儀式の中にゾロアスター教の作法を取り入れたとも推測されている。
若狭では、ずいぶん前から、徐福、八百比丘尼、空海にまつわる不老不死伝説を追いかけているのだけれど、その文脈の中で、 この祭りは、海のむこうからやってきた「渡来系」というキーワードと、空海が求めた不老不死の重要なエレメントである「水銀」 というキーワードに密接に結びついている。さらには、若狭神宮寺を開山した和赤麿、 その赤麿が見いだし仏門に入らせた良弁が後に東大寺初代別当となり、その弟子が実忠であり、14代別当が空海であるといった、「東大寺」 コネクションといったものも潜んでいる。
いずれ、そのあたりの詳細は、若狭から熊野まで続く「不老不死ルート」の解明とともに、紹介しようと思う。
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投稿情報: uchida | 2010/02/14 17:02
>八戸市 木村のラーメン さん
コメントありがとうございます。
お水送りの儀式では、そもそも宗教というものが単純に割り切れるものではなくて、様々なものが集合し混交しカオスとなって、ある形にたまたま創出されたのがこのような儀式となっていると実感させられます。
レイラインというアライメントから神話にアプローチしていくと、イデオロギーとは無関係な立場で概観できるので、とても新鮮です。
日本神話における天孫・国津神の対比と混交も、ヨーロッパの表のキリスト教とアルカイックな信仰の名残としてのデュオニソス信仰やケルト信仰、黒マリア信仰などとの対比・混交もまさに同じようなものですね。
日本をつぶさに見れば、古代の神々の対立の痕跡もあれば、集合の痕跡もある、さらには北アジアのシャーマニズムの気配や南方からの女神信仰の影響と、じつに多彩で、調べれば調べるほど奥が深くて、楽しくなってきます。
投稿情報: uchida | 2009/03/15 14:08
はじめまして。レイラインの研究はとても素晴らしいですね。聖地を結ぶラインが幾何学図形を形成する様は、神秘的でファンタスティックで、まさに地上の星ですね。古代、その中心にイワクラを祭り、神が舞い降りたのでしょう。
古代のイワクラ信仰は、地祇族のものでした。天孫族が聖地を奪い信仰を排除し、自分たちの神を祭り今に至ります。これはヨーロッパでも同じで、教会はレイラインの上にあり、キリスト教以前は別の神々が祭られていました。
天孫族と地祇族の戦いは聖地やレイライン、貴金属などの鉱物資源をめぐる壮絶な戦いであります。赤城山と日光でのムカデと大蛇の戦いは言うに及ばず、日本中に戦いの痕跡があります。そしてそれは今でも続いているのでしょう。いやだなー、おっかねーなー。
投稿情報: 八戸市 木村のラーメン | 2009/03/14 13:49
今日、白洲正子の『十一面観音巡礼』がアマゾンから届く。
パラパラとめくっていると、「お水送り」の詳細なレポートが……さすが正子さん。
投稿情報: uchida | 2009/03/05 19:27