メモを取ったり、様々な構想をノートに書き出したりして、万年筆のインクを使い切り、再び充填するその時間が好きだ。
インクが飛び散らないようにボトルのキャップを慎重に開き、傍らに置いて、 万年筆のキャップを外してペン先をビンの中のインクに浸す。
泡が混じらないように、コンバーターをゆっくり回して軸胴のタンクに吸い上げる。
タンクが満たされたら、インクボトルのガラスの淵に、コチッとペン先を当てて、余分なインクを落としてやる。
この一連の作業の時間が、なんとも心地良い。一人、静かにこの一連の作業をしている時間は、何か錬金術めいた『秘儀』 を執り行っているようでもあり、知らぬ間にとても集中している……その緊張感がいいのだ。
万年筆というアナログに筆記具で、しかも便利なカートリッジを使うのではなく、コンバーターでわざわざインクを吸い上げる…… それは、物事を発想して、それを紙に記録するという、本来マジカルな作業に対するリスペクトともいえる。
錬金術が、孤独で厳かなしかも手間の掛かる作業を必要とするように、何か、本質に迫るためには、こうした儀式が必要な気がする。
合理化されデジタル化された世界ではそぎ落とされてしまう『機微』。じつはそこにとても大切なものがあるような気がする。 こうしたアナログな作業を通して、そんな機微を感じて、ぼくはバランスを取っているのかもしれない。
なんてことをキーボードを叩いて2バイト文字を打ち出しているうちに、アナログ作業がもっとしたくなって、結局、 空になっていない他のペンまで、全部インクの入れ替えをしてしまった。
コメント