"RIDE"というオートバイの雑誌がある。オートバイやクルマといえば、新車インプレッション・紹介が華と相場は決まっているが、 RIDEは漫画家の東元昌平氏を主筆にして、 今40代以上の往年の走り屋たちが懐かしがる70年代後半から80年代のバイクシーンを蘇らせて好評を呼んでいる。
オートバイという乗り物がまだファッション化する以前、それはワイルドでアウトローで、「男の文化」の象徴だった。
自分の中に燃えたぎるパッションをどう昇華していいかわからず、 自分の命をかけた瀬戸際のスピードやスリルの中にカタルシスを求めた……あの懐かしい時代。
小賢しい理屈や中身のない子供だましのシステムを"IT"とほざいて、男がどんどん去勢されて空洞化していく社会の中で、 あの手応えのあった時代を懐かしむ魂はまだまだ死んでいなかったのだろう。
そんな魂たちに火をつけたのが、編集長の鈴村典久だ。
彼とは、別な雑誌の取材で、ぼくがライターとして彼が編集兼カメラマンとして、あちこち駆け巡った。そして、 取材の晩はいつも夜更けまで飲んで、なよなよした風潮に迎合する浅はかなメディアではなく、「骨」 のあるメディアを立ち上げたいと語り合った。
鈴村は、それを見事に形にした。
ぼくはだいぶ出遅れてしまったが、今、ようやく自分が形にすべきものが見え、それに向かって動き始めた……そのことには、 これから追々触れていこうと思っている。
先日、久しぶりに鈴村と会って酒を飲んだ。
「とびきり旨いコーヒーを分けてくれる店知らないかな?」
ぼくが具体的に動き始めたプロジェクトの中に、コーヒーにまつわることがあって、ふと彼に聞いてみた。
「あぁ、それなら、ぼくの高校時代の友人が喫茶店をやっていて、美味しいコーヒー淹れてますよ。焙煎した豆を送ってもくれますから、 届けさせましょうか」
「だけど、おまえ名古屋出身だよね。ということは名古屋の喫茶店?」
「そう、名古屋だけど、彼は純粋にコーヒーで勝負していて、名物の『おまけセット』みたいなのはやってないんですよ。とにかく、 一度飲んでみてください」
といった展開になった。
その鈴村が手配してくれたコーヒーが届いた。
さっそく朝一番に、「マドブレンド」を挽いて淹れてみた。
ほどよい苦みと酸味が最初に感じられ、すぐにそれが引いて、今度は仄かな甘みが立ち上がってくる。そして、飲み込んだ後には、 また仄かで心地良い苦みが刷毛で掃いたように余韻を残す……『あぁ、丁寧に豆を選んで焙煎しているなぁ』と、思わず溜息が出る。
ぼくはどちらかというとブレンドよりも個性のはっきりした単品のほうが好きなのだが、 まるで虹を味わっているような調和しながらも個性が出しゃばらずに沸き立ってくるこのブレンドはたちまち好きになった。
このブレンドから、マスターの人柄が浮かび上がってくるようだった。
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