『崖の上のポニョ』……スタジオジブリの最新作だが、この作品は、「手書きにこだわった」「あたたかさ」を売りの一つにしている。
その点を、あるCGクリエイターが、「手書き=アナログ=あたたかい」という図式を主張することで、「CG=デジタル=冷たい」 という対比構造を表出させる卑怯な宣伝手法ではないかと批判している。
かつて、一枚一枚セル画を描く時代、アニメ映画産業は悲惨な職場だった。セル画を一枚一枚仕上げるアニメーターたちは、 長時間の過酷な単純労働を薄給で耐えねばならず、まさに『絶望工場』のような有様だった。
それが、CGの登場によって、表現力が豊かになり、しかも単純作業の割合が減って、アニメーターたちは、 より表現のディテールに凝れるようになった。
今や、「手書き」にこだわれるということは、それだけマンパワー=コストを使えるということを誇示して、 ステータスを主張する嫌らしい宣伝文句だと、彼は書いている。さらに、この宣伝文句は、CGクリエイターに対する侮辱であると……。
たしかに、CGだろうが実写だろうが手書きのアニメだろうが、どれだから質感が「柔らかい」とか「あたたかい」というのは、最早、 ナンセンスだと思う。それに、今までの宮崎アニメは、手法のことなど前面に押し出したりせず、ただ、その『世界観』 で勝負してきたのではなかったか……。
興行収入最高を記録した『千と千尋の物語』に迫る勢いだと、例によって提灯マスコミは喧伝するが、映画館では『崖の上のポニョ』 は空席が目立ち、併映の『アンパンマン』や『ポケモン』は子供たちで溢れ、上映時間をずらさなければ見られないほどだという。
ぼくも宮崎アニメは大好きで、そのほとんどの作品を見ているが、今回の作品は、明確なメッセージ性がなく、 わざわざ映画館へ足を運んでみようという気がしない。初期の作品は別として、スタジオジブリとして発表した作品は、 どれも時代に対するプロテストをメッセージとして含んでいて、それが、まず問題意識を持った大人の琴線に触れ、 さらにピュアな心の子供たちに訴求したのではなかったか……。
ところが、今回の作品は、大人の琴線には、まず触れてこない。宮崎監督は、「今まで大人を意識しすぎた。 子供向けの作品を作りたかった」とコメントしているが、だったら、尚のこと、制作手法などを売り文句にせず、内容で伝えて欲しかったと思う。 『トトロ』だって『千と千尋』だって『ラピュタ』だって、作品の中のワンカットだけで、その作品が秘めたメッセージは明確に伝わり、 大人も子供も、その作品トータルの世界に浸ってみたいと思わせたのだから……。
>sisyphos108さん
コメントありがとうございます。
結局、「崖の上のポニョ」は見る機会も、見たいという興味も湧かずじまいでした。
公開されてからもうだいぶ経ちますが、世間一般の評価はどうだったのでしょうね……。
宮崎さんには、ぜひまたメッセージ性の強い作品を作ってもらいたいですね。
投稿情報: uchida | 2009/09/12 22:54
「崖の上のポニョ」の感想ブログを辿って、
こちらにおじゃましました。
まさしく、uchidaさんの言われる通りですね。
今回の作品は内容以前に、
売り込みかたが間違ってます。
「CG不使用」や「すべて手描き」がウソであることは、
少しアニメを見慣れたものなら、すぐに気がつきます。
実際、公式HPでも、自滅するような言い訳をしています。
http://www.ghibli.jp/ponyo/press/keyword/
CGペイントやモーフィングの技術は、
よりアニメをリアルに表現するために進化した技術で、
それを使うことは決してアニメーションにとってマイナスではないはず。
なにしろ、セル時代の塗り職人は、ムラなく塗ることに命をかけていたわけだから。
しかも、大々的にデジタル・ペイントを作品制作に導入した嚆矢は、「もののけ姫」だったはず。
私も未見なので、内容についてはどうこう言えませんが、
宮崎アニメは商業的成功とともに変質してしまったようですね。
その背後に鈴木敏夫プロデューサーと、
世界配給のしきりをするディズニー社の存在を感じます。
ちょうど専門職としての声優を毛嫌いするようになったのと、軌を一にしますね。
キャラクター商品にそぐわない登場人物を出すのは、
宮崎駿特有のアマノジャクで、
ハウルの城にしろ、カオナシにしろ、ポニョにしろ、
ああいう姿をしているのは遠回しの嫌がらせだと思います。
「もののけ姫」以降の宮崎駿は、
どこか作品に悪意がこもっているような気がしてなりません。
それは観客に向けられていると同時に、
作品を商品として歪曲する配給やスポンサーに対するものですね。
売れない物をつくって、大損になったらそのほうが面白い、
そんな破滅的な願望もどこかにこもっている気がします。
もうジブリや宮崎アニメは監督個人のものではなく、
配給会社やスポンサーにあやつられる人形のようですからね。
投稿情報: sisyphos108 | 2009/09/08 17:40
>Ryuさん
コメントありがとうございます!!
作品の中に、作品作りに没入してしまうという点では、たしかに「アマチュア的」かもしれませんね。
だからこそ思い入れが強くて、作品が「滑った」ときには、落胆も大きそうです。
ぼくもまだこの作品を観てないので、内容云々は言えませんが、テーマにこだわったアマチュアイズムが魅力なだけに、それが見えないのは、どうしたんだろうと思いますね。
作品を突き放して、作品作りで縦横無尽に遊んでしまうスピルバーグは、まさにエンタテインメント職人ですね。
投稿情報: uchida | 2008/07/25 22:08
宮崎監督は、良くも悪くも徹底してアマチュア的ですから、作品の当たり外れの激しさに関しては、あきらめるしかないなと思っています。
彼がいくら「子供向き」といったって、それはあくまでも彼のイメージする子供に向けて作っているだけで、ホンモノの子供(&親)のニーズをおさえて作っているポケモンやアンパンマンに敵わなくても、不思議ではありません。
もちろん、たまたま宮崎作品の方がニーズにフィットする場合もあって、そういうときはトトロのように超特大ヒットになるわけですが。
同じような職人気質の監督ながら、今回のインディ・ジョーンズ4に観客の観たいものを憎たらしいほど詰め込んで来たスピルバーグ監督のプロ的なこだわりとは、まったく好対照だと感じました。
しかしながら、ジブリというプロダクション全体が、宮崎監督のアマチュア的視野に振り回されたプロモーションをするのは、いただけませんね。
海外在住ゆえポニョは未観ですが、勘ぐった見方をすれば、手描きを強調しているのは他に強調すべき部分がないからではないかと思ってしまうのは、意地が悪すぎでしょうか。
投稿情報: Ryu | 2008/07/25 15:04