人間の耳に聞こえる音が消え去った後、宇宙を満たす『虚空の音』。そんな音を求めて、インドへシタール奏者を訪ね、 アメリカへソロピアニストと海洋生物学者を訪ね、再び日本に戻って、熊野の聖地を訪ねる……。
ガイアシンフォニーシリーズの6作目となるこの作品は、ぼくにとって、デジャヴュを観るような不思議な印象を残した。
昔、北アルプスの稜線でキャンプしていて、夜中に一人で起き出して、凄まじい星空を眺めていたとき、風もなく、人声も、 鳥の囀りも聞こえず、ただ星の瞬きの音が聞こえたような気がしたことがあった。
この作品を見終わって、すぐには自分のデジャヴュの感覚がどこにあるのかわからなかったが、しばらくたって、 そんな昔の光景を思い出した。
耳では聞こえないけれど、あのとき、たしかにぼくは、体で虚空(そら)の音を聴いていたのだろう……。
クジラは、何十万年も前から、今の人間と同じように「歌」を作り、歌い、それでコミュニケーションをとってきたのだという。 シロナガスクジラは、その超低周波の「歌」によって、たったの三頭で地球の海洋の隅から隅まで、歌を響かせ、 意志を通じ合うことができるのだという。
同じ祖先から出発しながら、鯨はガイアの精神と一体となり、人間は自分たちのかけがえのない住処であるガイアを痛めつけている……。
生涯を掛けて鯨と付き合ってきたロジャー・ペインは、人類が再びガイアの意識と繋がるためには、 万物に霊性を認めて自然と共生する思想を持ってきた日本人が重要な役割を果たすだろうと言う。それを受けて、熊野の風景で終わる。
そういえば、この夏に訪ねた熊野でも、虚空(そら)の音に接していたことを思い出した。
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