■鳥羽水族館から二見浦・夫婦岩■
伊勢神宮参拝の翌日はあいにくの雨模様。予定では、 一気に南下してキャンプするつもりでしたが、 今回の旅は時間に余裕もあることだし、雨の中をあちこち巡るのも難儀だしと、 鳥羽水族館を覗いてみることに。
これが一人旅なら、わざわざこうしたアミューズメント施設を覗くことはしませんが、今回は同行の女性陣が盛り上がって、 数十年ぶりの水族館をけっこう楽しむことができました。
子供の頃は、魚や海獣についての科学的な知識などは何もなくても、その形や動きや表情にたくさんのものを感じて、 それだけで楽しめたものです。大人になるにつれて、余計な知識がついて、こんな場所に来ても、 知識として魚の名前や生態などを覚えようとしてしまって、説明書きなどばかり熱心に読んで、せっかく目の前に本物がいるのに、 印象が残らなかったりしてしまいます。
今回は、子供心をもった女性陣と一緒に巡って、 彼女たちが傍らで無邪気に水槽の中の魚や海獣たちと向き合って楽しんでいるのに影響されて、 動物たちの表情やら仕草やらに目を向けて、 それが逆に強く印象に残ったおかげで、名前や生態もだいぶ覚えました。
ゴールデンウィークの家族サービスに訪れて、だいぶくたびれているお父さんたちもかなり見かけましたが、 せっかく子供たちと一緒に来たのなら、自分も童心に返って楽しまないともったいないですね。
雨をやり過ごすつもりで入った水族館に結局半日以上いて、表に出ると雨もだいぶ小降りになっていました。 日本有数の多雨地帯である紀伊半島は、その雨が生み出した深い森こそが「神々の住む場所」 と形容される独特の景観を生み出しているわけですが、さすがに、篠突く雨の中の散策では、景色を楽しむ余裕などありません。
でも、小降りの雨の中で山々を見渡せば、重なり合った山の間に取り残された雲が漂い、それが新緑を洗って、 まさに神々しい心に染み入る景色を見せてくれます。このくらいの天気が、もっとも紀伊半島らしさを感じさせてくれます。
この日は、キャンプを中止した代わりに、紀北町にある「キャンプinn海山」 にロッジを予約しました。鳥羽から紀北町へ向かう途中、二見浦に寄り道。ここは、夏至の日に二つの岩の間から朝日が昇る「夫婦岩」 が有名です。
2002年の夏至の日、ぼくは、この夫婦岩で登る朝日を拝み、その朝日を追って京都を抜け、 宮津にある元伊勢でその夕陽を拝みました。
記紀神話の中に出てくる「国譲り」の話に登場する神々をそのまま風景の中のオブジェクトに移し替えて配置し、 さらに200km以上も離れた伊勢と元伊勢という聖地を線で結んで、 それで近畿に巨大な五芒星を描き出した古代人たちの想像力に感動したものでした(詳細は、「夏至の結界」、「近畿の五芒星を巡る」 をご覧ください)。
高校時代に登山を始め、山に通い続けるうちに、山岳信仰に興味を持って、 さらに古代の自然信仰と神話の関係などをフィールドワークとして追うようになってから、様々な「聖地」と呼ばれる場所に足を運び、 心に残る光景と出会いました。
そんなぼくの活動にテレビが付き合い、昨年から一年間に渡っての活動を記録した番組「太陽と古代へのロマン- レイラインハンティング-」が5月28日(月)、NBS長野放送の月曜スペシャルでオンエアされます。
古代の太陽信仰に興味を一気に引き寄せられたのは、この二見浦夫婦岩を起点とする夏至の太陽を追いかける旅がきっかけでした。 それが発端となって、テレビ番組が出来上がるまでになるとは、当時は想像もしませんでした。
自然を感じることの大切さ、自然を肌身で感じるからこそ、自分がその一部であり、自然を大切にしなければいけない…… そんなことを古代の人たちから教えられたような気がしています。
それをはっきり自覚させてくれたのが、この紀伊半島、熊野の自然であったのです。そんな意味でも、ぼくにとって、この神々の土地は、 その名の通りの場所なのです。
■大台ヶ原山麓の快適なキャンプサイト■
二見浦からは、いったん伊勢市内に戻り、伊勢自動車道を大宮大台ICまで。 さらにR42を南下。
このあたりは紀伊山地の中でももっとも多雨で、もっとも山深い大台ヶ原の山麓にあたり、別名「果無山脈」 と形容される紀伊山地を実感できる。
「キャンプinn海山」は、 その大台ヶ原から流れ出る沢沿いに、広々したキャンプサイトやロッジが点在して、周囲は果無の山に囲まれて、とても落ち着く場所です。
今回は、そのうちの5人用ロッジを借りて宿泊。途中のスーパーで買い込んだ食材を調理して、のんびりした夕食を楽しみました。
翌朝は、ロッジのテラスに備え付けのキャンプテーブルとチェアを設えて朝食。 時折、霧が掛かる山々を眺め、 涼しげな沢音と鳥の声をBGMにした爽やかな朝を堪能しました。
ここは、元々紀北町が整備した施設でしたが、NPOに移管。キャンプサイトもロッジも一区画がゆったりとしていて、 隣が気になったりもせず場内は整備が行き届き、ゴミの分別回収体勢やガイダンスもしっかりしています。
ロッジは管理棟から200mあまり離れていますが、各ロッジに一台自転車が置かれていて、管理棟への行き来が楽になっています。 こうした心遣いは、とても気持ちのいいものです。
■波田須、大吹峠へ■
キャンプinn海山を出発して、まずは波田須(はだす)へ。ここは、 秦の始皇帝の命を受け、 東の国にあるという不老長寿の仙薬を求めてやってきた徐福が上陸した場所(あるいは、 ここからさらに東へと旅立った場所)として伝説が伝えています。波田須は、古く「秦住」と表記されていたという説もあります。
棚田が続く小さな集落の外れに、どこからでも見える大きな楠があり、その下に「徐福の宮」があります。この波田須の人たちから 「徐福さん」と呼ばれて親しまれているこの宮は、そこだけ空気がひんやりとしていて透明感があり、 まるで森の精気がそこに集約されているような場所です。
ここから真っ青な海が続く熊野灘を見下ろすと、この紀州熊野が彼岸と此岸の境にあって、彼岸=補陀洛を夢見て、 修行僧を中心とした多くの人たちがこの海へ漕ぎだしていった気持ちがわかるような気がします。
波田須では、シンセサイザー奏者として知られる矢吹紫帆さんが営まれている 「天女座」を訪ねてみたいと思っていたのですが、 残念ながら休館日。ここはまたの機会に。
さて、波田須からはいったんR311に戻り、少し南に行くと、「熊野古道・大吹峠登山口」の看板が現れます。
伊勢から熊野本宮へと向かう「伊勢路」の一角、ちょうど全行程の中間点にあたるのが大吹峠です。 国道沿いの駐車スペースに車を置いて、道標に従って山道へ。
整然とした石畳の道は、熊野古道を辿った古人たちの足跡を感じさせてくれます。朝からぐんぐん気温が上がって、 昼前には真夏日となって、車はエアコンを掛けなければ辛いくらいでしたが、樹林の中の道は空気がひんやりとして、 気持ちよく歩いていくことができます。ときおり、風が樹を揺らし、葉擦れの音がまた涼しく森に木霊しています。
例年な ら混雑を想像して出かける気力が出ないゴールデンウィークですが、こうして、 出かけてみると、 一年中でいちばん爽快な季節だということがよくわかります。
熊野古道は、見所の多い中辺路がいちばんの人気で、この伊勢路のほうはあまり人とも出会わず、 のんびりと散策できるのもいいところです。
歩き始めてから30分あまり、心地良い汗をかいたところで大吹峠に到着。峠の西側は見事な竹林が続き、そこに踊る木漏れ陽と、 サワサワという竹の葉の擦れる音が、幻想的です。
本当なら、この峠を越えて西側へと下って行きたいところですが、車での移動のためピストンコース。今回は、 熊野を訪ねるのが初めてというメンバーと一緒の旅なので、とりあえず主要なポイントを巡り、熊野古道歩きはほんの「さわり」 程度の予定としました。でも、やはりこうして森の精気を受けてトレッキングしていると、 本格的に山道を辿って旅がしたいという思いに囚われます。本格的な古道歩きは、次回ということで。
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