いつ頃からか、静かな夜の時間と月明かりが心地よく感じるようになった。秋の虫の鳴き声を聴きながら、涼しい風に吹かれて、 一人ぼんやりと月を眺める。そんな時間が気持ちいい。
昔、外苑前にほど近いところに仕事場があったときは、今の季節は、晴れていれば、よく夜中に代々木公園まで散歩して、 広い草原に寝転がって月が動いていくのを眺めていた。
その頃、時々ひょっこりと仕事場にやってくるカナダ人の友人がいて、 彼と一緒に月夜の代々木公園で大の字になってひっくり返っていたこともあった。彼は、若い頃は売れっ子のインダストリアルデザイナーで、 40歳を過ぎてから急に、シンプルライフを指向するようになって、仕事は最小限にして、 夜風に吹かれる時間をもっとも大切にするようになっていた。
あるとき、彼は、自分のホームネームであるドゥリトゥル(あのドリトル先生と同じ)をカリグラフィで書いた紙をぼくにくれ、 「クリエイターにとって、深夜から明け方はマジカルタイムなんだよ。それが本能的にわかっている君は、 自分の感覚をもっともっと大切にしなければいけない」と話した。
そして、彼はマジカルな島「バリ島」へと移住していった。
秋の月夜は、彼、D.Dolittleのことを時々思い出す……。
彼が向かった島は、もっとも現実から離れた幻想の島だったはずが、いつの間にか、 血なまぐさい国際政治のせめぎ合いの場となってしまった。
そして、彼は……。
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