昨日の朝方、妙な物音に目を覚ました。
一度寝付いてしまうとちょっとやそっとでは起きないくらい眠りが深いのだが、このときは、物音を敏感に感じ取り、さらに異様な気配に頭が冴え、そのまま再び眠りにつくことが出来ず、気配を確かめてやろうと起き上がった。
そして、まだ夜明け前の暗い中で、玄関に続くふすまをそっと開けて、玄関のほうを覗くと、そこに黒い影がうずくまっていた。薄暗がりの中でより暗い影の塊としか見えず、顔かたちもどんな服を着ているのかもわからないけれど、そこにいるのが男であることはわかった。
そのとき、ぼくは、自分が感じた気配が、この影であることを確信して、敏感に反応できたことに満足して、何するでもなく、ただ5mほど先にうずくまる影を見つめるだけだった。
そんな怪しい影を前にしたら、恐怖で立ちすくむか、ただちに何か武器になるものを探して手にとって対抗するかすべきところなのだが、何故かそんな必要はないことがぼくにはわかっていた。
そして、しばらく見つめているうちに、影はスッと目の前で消えてしまった。
(今の影は、いったいなんだったんだろう)
と、ふすまにもたれて考えているところで目を覚ました。夢の中での覚醒の度合いと実際に目を覚ましたときの覚醒の度合いがほとんど変わらない妙な感覚……。
時計を見るとまだ6時になったばかりだった。
そのまま寝付けなくなってしまい、本を読んだりしているうちに明るくなってきた。朝のうちに届け物をするという友人との約束を思い出して、8時過ぎに自転車で10kmあまり離れた友人の家へ。
その帰り道、携帯が鳴った。
出てみると、母からで、今朝方、伯父が亡くなったとのこと。
昨年4月に階段から落ちて足を骨折して入院していた伯父は、リハビリの最中に軽いくも膜下出血を起こした。これは、伯父の異変にすぐに気づいた医療スタッフのおかげで緊急手術が行われて軽微なもので済んだ。
その後、怪我も頭のほうも順調に回復し、12月の初旬の段階では、年末には退院できるとのことだった。見舞いにいかなければとずっと思っていたが、従兄弟が「退院してから、ウチのほうに来てくれよ」というので、そのつもりで、ずっと順調に回復しているものとばかり思っていた。
ところが、そろそろ退院の準備をという月末に急に体調が思わしくなくなり、そのまま入院がずるずると長引いた。
ノロウィルスの院内感染だった。抵抗力がさほど弱っているわけでもなく、病院関係者もさほど事態を重く考えていなかった。
ところが、突然、様態が悪くなり、そのまま逝ってしまった。それが23日の未明のことだった。
4年前に伯母が亡くなり、そのとき伯父は最期の別れに、棺の中の伯母に長い口づけをした。50年以上、仲良く連れ添った夫婦だった。
その後、とても寂しそうにしていた伯父は、迎えにきた妻に素直にしたがって彼岸へ渡る道を選んだのだろう。
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