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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.296
2024年10月17日号
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◆今回の内容
○聖地の環境工学
・環境をホリスティックにとらえる風水
・インド版風水「ヴァーストゥ・シャーストラ」
・サクリッド・ジオメトリーとフリーメイソンのシンボリズム
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聖地の環境工学
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前回と前々回は、風景や環境と聖地との関係について、主に人間の心理的な側面から研究している文化人類学や宗教学の成果について概観してみました。
聖地は人間が生み出してきたもので、ただそこにアプリオリに存在してきたものではありません。聖地それぞれに、成り立ちも、作り出された意図も異なります。それを知ることは、「聖地とは何か」さらには「なぜ人間は聖地を必要とするのか」という根源的な問いに迫っていくために欠かすことができません。
そうした話は、具体的な聖地の話、とくに身近な日本の聖地についての情報が知りたいという人にとっては退屈かもしれません。しかし、自分の身近に存在する聖地の本来の意味を理解し、そこに秘められたゲニウス・ロキを明確に感じるためには、聖地にまつわる様々な側面を知っておくことが必要ですし、それがより深い聖地体験につながるはずです。そんな思いもあって、理論的な話やアカデミックな話に傾斜することがあるわけですが、そんな意図を理解してお付き合いいただければ幸甚です。
今回は、風景や環境と聖地との関係を意識した思想として、どのようなものがあるのか、具体的な事例を紹介したいと思います。前二回の話も意識しつつそれぞれの事例を見ていくことで、聖地と環境との関係から、聖地を作り上げるための環境工学が明らかになると思います。
●環境をホリスティックにとらえる風水
環境と聖地との関係と言って、私たち日本人がすぐに思い浮かべるのは「風水」でしょう。家を建てたり、家具などのレイアウトをする際に、風水の「理論」に基づいて工夫することで幸運に恵まれるといった話をよく聞きますし、そういったノウハウをまとめた書籍もたくさんあります。その真偽はともかくとして、そもそも風水は自然環境と人の暮らしを調和させて、心身ともに健康に暮らせるようにすることを目標とした環境工学ですから、それに関心を寄せるのは至極健全なことだといえます。
風水の起源は一般的に殷・周時代(紀元前10世紀以前)の「卜宅」にあるとされます。これは村落や宅地の吉凶を占うもので、後に都市設計に用いられる広域的な風水や陽宅(住居)風水の基礎となったとされます。
「風水」という語は、3世紀の晋代に郭璞の撰による『葬書』にはじめて現れます。「気乗風則散 界水則止 古人聚之使不散 行之使有止 故謂之風水 (気は風に乗れば則ち散り、水に界せられば則ち止る。古人はこれを聚めて散らせしめず、これを行かせて止るを有らしむ。故にこれを風水と謂う)」がそれです。また、『葬書』よりも古いとされる『狐首経』の「得水為上 蔵風次之 (得水を上とし、蔵風をこの次とす)」が語源であるという説もあります。
初期の風水は「形勢派」と呼ばれ、主に山川を中心とした地形から目に見えない「気」の流れを読み解き、その中で人が住みやすい場所を選定して集落と住居を配置しました。これはその後も風水のいちばん核心的な部分を成しています。
風水における方位の見立ては、はじめは北極星を基準にしていましたが、春秋戦国時代(紀元前770-221年ごろ)に「司南(しなん)」と呼ばれる方位磁針が発明されると、これが用いられるようになり、より精緻な見立てが行われるようになりました。「◯◯指南」というように何かの技術を教えたり、指針を示す言葉が今でも使われますが、この「指南」は、中国の古代の戦場で先頭に立って南を基準にして進軍を指揮した「指南車」に由来します。この指南車は方位磁針の「司南」を装備していたのです。
漢代に入ると、宇宙のあらゆる現象を陰と陽、そして木・火・土・金・水の五つの要素の相互作用からなるとする陰陽五行説が唱えられるようになり、風水もこの思想の影響を強く受けて発展します。ただ南北を基準とするだけだった司南は、陰陽五行や易経、宿曜などの用語がびっしりと刻まれた古代のコンピュータのような羅盤の中心に配されました。この羅盤は、以後、風水師必須の道具であるとももに彼らのシンボルともなりました。
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