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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.176
2019年10月17日号
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◆今回の内容
○シャーマンとアルタード・ステーツ
・シャーマンとは何か
・どうやってシャーマンになるのか
・ダライ・ラマと天皇
・アルタード・ステーツに入る試み
◯お知らせ
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シャーマンとアルタード・ステーツ
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1979年に公開されたケン・ラッセル監督の映画『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』は、主人公が幻覚剤とアイソレーションタンクを用いてアルタード・ステーツ(変性意識)に入り、そこで人類誕生の歴史を遡って、宇宙意識ともいえる根源的な「存在」との一体感を体験するという内容でした。これは、脳神経学者ジョン・C・リリーの実体験を元にしています。
リリーは、1960年代後半からLSDやペヨーテ、ケタミンといった幻覚剤を服用して、自らが開発したアイソレーションタンクに入り、人の意識がどのように変容するかを実験していました。その中で、映画でも描かれたような神秘的な体験をして、そこに人類が精神的に進化する大きな可能性を見出しました。
ところが、これが軍部や諜報機関によって洗脳の技術として応用されるようになったことに幻滅し、自らはこの研究から遠ざかります。その後、イルカとのコミュニケーションという分野に転身しますが、これもイルカを兵器として利用しようとする軍部に圧力を加えられたことから、途中で中止し、公の研究からは遠ざかってしまいました。その顛末は、『イルカの日』という映画で描かれています。余談ですがここで、ジョン・C・リリーの役を演じたのはジョージ・C・スコットでした。
リリーがアルタード・ステーツの研究に取り組んでいた頃には、ティモシー・リアリーやリチャード・アルパートといった心理学者たちも同じ研究に取り組んでいました。彼らがアルタード・ステーツの研究に惹かれたのは、この講座の第169回でも取り上げたヒッピームーヴメントを背景とした文化運動の中から、プリミティヴな文化や価値観に目を向けようという機運が高まり、シャーマニズムが脚光を浴びるようになったからでした。
それまでは、シャーマニズムといえばもっぱら宗教学が研究対象としていて、しかもメインストリームからは外れたアニミズムから一歩進化しただけの信仰形態としてとらえられていました。シャーマニズムは現代にも残っていますが、それはその社会の後進性を示すものだととらえられていました。
リリーたちは、シャーマニズムの文化的な位置づけではなく、シャーマニズムの本質ともいえるそのメカニズムと効果に焦点を当てました。シャーマンがトランス(忘我状態)に至ったり、シャーマンに頼る人がトランスに導かれたりするそのメカニズムとトランス状態で経験するものを明らかにしようとしたのです。トランス状態で経験するものこそアルタード・ステーツであり、それが人間の精神を進化させる可能性があると信じて。
今回は、21日のトークサロンに先立ち、トークサロンで取り上げるシャーマニズムとアルタード・ステーツについて掘り下げてみようと思います。
●シャーマンとは何か
リリーたちの研究よりも早くシャーマニズムに興味を抱き、自らシャーマンの弟子となってその奥義を極めようとした人類学者がいます。彼の名は、カルロス・カスタネダ。UCLAで人類学を修め、フィールドワークに赴いたメキシコの片田舎で、ヤキ・インディアンのシャーマンであるドンファンの弟子となり、自らシャーマンとなる修行を重ねていきます。その様子を記した『ドンファンの教え』という著作は大ヒット作となり、一躍、世界中でシャーマニズムが注目を浴びていくことになります。
ところが、カスタネダはメディアなどに登場することがなく、常に一方通行の発信だったため、彼の著作は、ドンファンという人物をはじめすべてが創作ではないかとも考えられました。しかし、その内容はとても具体的で、意識変容の様子の描写もリアルで、たとえ創作だとしても、そこには多くの実体験が含まれていることは確かでした。
カスタネダの最初の著作からちょうど40年後、クストファー・マクドゥーガルが『Born to Run』を発表します。メキシコ北部に暮らすタラウマラ族の生活と文化を紹介したドキュメンタリーともいえるこの作品に登場するグルは、カスタネダが著したドンファンに極似していました。ヤキ族はタラウマラ族と非常に近い種族でしたから、図らずも、マクドゥーガルはカスタネダの著作の信憑性を別な形で証明することとなりました。
そもそもシャーマンとは何でしょうか。
その語源は、ツングース語で呪術師を意味する「Saman」に由来します。ツングースのシャーマンはベニテングタケを擦り潰してそのエキスを飲み、手にした太鼓を激しく鳴らしてトランス状態に入ります。そして、狩猟の獲物の動向を予知したり、悪霊を払って病気の治療をしたり、様々な呪術を行います。さらに、祭祀を取り仕切り、そこで参加者にもベニテングタケのエキスを飲ませてトランス状態に誘導して、自らが進むべきビジョンを見させたりもします。
神官や僧侶といった宗教職能者も、霊界や霊的存在といったものに関わる専門家ですが、こうした職能者は、自らが霊界と交通したり、霊的存在と直に接触するわけではなく、あくまでも儀礼的にそういったものと接触するだけです。僧侶は儀礼的に死霊を弔い、冥府に導いて成仏させますが、冥府で死霊がきちんと成仏しているか、遺族や縁者にどんな気持ちを抱いているかを具体的に知ることはできません。神官は、神々に祈りを捧げることはしても、それを神々がどのように受け止め、どんな反応をするかを直接知ることはできません。
これに対して、シャーマンはこの世と霊界を自由に行き来し、霊的存在と直に接して、その意思を聞き取ることができます。もちろん、それはあくまでも観念的なものであって、客観的に説明できるものではあませんが、シャーマンがそうした職能者であると認識されていることに、シャーマンの社会的存在意義があります。
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