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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.156
2018年12月20日号
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◆今回の内容
◯夫婦神の起源
・国生み神話と洪水神話
・イザナギ・イザナミは淡路島の土着神?
◯お知らせ
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夫婦神の起源
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先日、遅ればせながらダン・ブラウンの最新刊『オリジン』を読みました。おなじみの主人公シンボル学者のラングトン教授が、教え子であり親友であった未来学者エドモンド暗殺の真相と彼が残した謎を解明していく知的アドベンチャーです。
エドモンドは、長年、量子コンピューティングやAIを研究し、革新的なコンピュータシステムを開発します。その過程で、人類はどのようにして生まれ、そしてどんな未来へと進んでいるのかという人類にとって究極ともいえるテーマの答えを見つけ出します。しかし、それを全世界に向けて公表する直前に暗殺されてしまう…。
ダン・ブラウンの十八番ともいえる宗教史とシンボル学に加え、最新のコンピュータ・サイエンスからシンギュラリティまで扱った刺激的な内容です。
この小説でダン・ブラウンがテーマにした「人類はどこからやって来て、どこへ向かっているのか」というテーマは、人類が意識を獲得して以来何十万年という歴史の中で、ずっと頭を悩まし続けてきたものです。宗教はその謎の隙間を埋めるために生まれたものですが、皮肉なことに個々の宗教によるその解釈の違いが、異なる宗教間の憎悪を生み出し、人類史を殺戮で塗り固めてしまいました。
近年、宗教的な観念を排除して客観的にこのテーマに臨む研究が盛んになりました。その結実点の一つが、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』と『ホモデウス』といえます。『サピエンス全史』では、どうして動物としては弱い種であった人類が地球の覇者となったのかが解き明かされ、『ホモデウス』ではその人類が向かっていく可能性の高い未来が提示されています。神のような超自然的な存在を前提としなくても、自然存在として人類は生まれ、そして未来は自らの意思によって拓いていくことができるということが非常に強い説得力をもって説明されています。ダン・ブラウンの『オリジン』は、そんなハラリの小説版ともいえます。
といっても、それらは完全なマニュアルではありません。それらをバイブルとして信じればいいというものでもなく、とくに未来に関しては私たち自身が理想の未来像を思い描き、進んでいくしかありません。
歴史に目を向けることの意味は、そこに宗教のような拠り所を見出したり、民族的なアイデンティティを確認することではなく、主義主張に関係なくプレーンな視点から、我々はどこから来た何者であるのかを理解することにあります。さらに、歴史上の様々な節目で人類がどんな選択をしてきたのか、その選択がどのような意思やあるいは社会状況によってもたらされたものなのかを客観的に判断することにあります。そして、歴史を見直すことで得た知見は、私たちが未来へと進んでいくための判断材料や指針としなければなりません。私が、聖地とそこに秘められた歴史を研究していく意味も、まさにそこにあります。
今回は、そんな視点を自ら再確認した上で、日本神話のルーツをイザナギ・イザナミという夫婦神の由来から辿ってみたいと思います。
●国生み神話と洪水神話
『古事記』の冒頭では、別天津神(コトアマツカミ)がイザナギとイザナミの二神に対してアメノヌボコという矛を与えて、ぼんやりとした空間に大地を完成させるように命じます。
イザナギとイザナミはその命に従って、天の浮橋に立ち、そこからアメノヌボコを海中に下ろします。それを海中から引き上げると、アメノヌボコの先端からしずくが滴り落ち、それが凝り固まって最初の島であるオノゴロ島を形作ります。「オノゴロ」とは、潮が「自ら凝る」とい意味で、状況そのものを表しています。
二神はそのオノゴロ島に降り立ち、そこに天御柱と八尋殿を建てます。そして、そのまわりを、イザナギは左から、イザナミは右から回ります。反対側で相対した両者は、そこで「あなにやし えをとこを」「あなにやし えをみなを」と互いに誘い合って性交します。ところが、最初に生まれたヒルコは不完全で、二神はこれを葦舟に入れて流してしまいます。次に淡島が生まれますが、これも御子の数には入れられません。
二神が太占(ふとまに)して問うと、女神であるイザナミのほうが先に誘ったのがいけなかったという神託が下りました。そこで、次に順序を変えてイザナギのほうから誘って、再び性交します。すると、今度は健常な子が生まれます。最初に生まれたのは淡路島、次に四国、続いて隠岐、九州、壱岐、対馬、佐渡、本州と次々に島が生まれ、大八洲が形作られるとともに、多くの小島も生まれていきます。『日本書紀』では若干内容が異なりますが、大筋は同じです。
夫婦神が交合して国を生むというモチーフは、この日本神話だけに見られるわけではなく、東南アジアからポリネシアにかけて広く分布しています。
もっとも有名なのは、中国神話に伝わる伝説上の帝王であり、民族の始原神とされる伏羲(ふくぎ)とその妹の女カ(じょか)の神話です。これはもともと苗族に伝えられてきた神話で、洪水に遭った伏羲と女カの兄妹が、瓢箪に乗って逃れ、人間の始祖となるというものです。中国神話の挿絵などで、蛇体の下半身を絡み合わせた兄妹の絵が描かれていますが、これは伏羲と女カの性交を描写したものです。伏羲と女カの間に最初に生まれた子もヒルコ同様に不完全で、目も鼻も口もありませんでした。
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