□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.100
2016年8月18日号
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
◯錬金術の世界
・化学と宗教の源流
・中国の錬金術
・インドの錬金術
・イスラムの錬金術
・西洋の錬金術
◯お知らせ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
錬金術の世界
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今回、この聖地学講座はついに100回を迎えました。2012年7月5日に第一号を配信してから4年と1ヶ月になります。他の仕事もこなしながら、隔週で原稿用紙で20枚あまりのボリュームの記事を配信するのは、かなりしんどい作業ですが、振り返ってみると、ここまで続けてきたことが自分にとってとても貴重な財産となりました。
「聖地学講座」というタイトルでスタートしたものの、しばらく続けてみると、「聖地学」と銘打つほどには聖地のことも、それにまつわる思想や宗教についても知識や理解が浅いことを思い知らされました。「これでは、とても続けられない」とへこたれそうになったことも何度もありました。しかし、自分に足りない領域を頑張って学び、咀嚼し、発信し続けてきたことで、何よりも自分自身が聖地にまつわる様々な事象を体系的にとらえることができるようになりました。「教えることは最大の学び」といいますが、それをまさに実感する4年間100号でした。
デスクの上には、この講座の記事を書くためにメモを取った分厚いノートが8冊並んでいます。そのメモの中には、まだ論文としてまとめきれない発想もたくさんあり、日々増殖しています。
こうして100号を迎え、大きな達成感を持つとともに、ようやく自分なりの「聖地学」の体系が見えてきて、これから200号、300号と続けていこうという意欲も湧いています。それは、ひとえにこの拙い論文にお付き合いくださっている皆さんがいるからこそと感謝しています。
これからも意欲的にこの「聖地学講座」に取り組んでまいりますので、どうぞ今後ともお付き合いください。
さて、今回は100号を記念して、太古の昔から人間が追い求めてきた不死にまつわる技術であり、聖地との関わりも深い「錬金術」について触れてみたいと思います。
【化学と宗教の源流】
「錬金術」というと何やら得体のしれない怪しい儀式的な作業のような気がしますが、錬金術師たちが金を生み出す様々な方法を試したことが化学の発展に大きく貢献しています。たとえば、紀元前300年頃には水銀が分離され、13世紀には「生命の水(アクア・ウィタイエ)」=アルコールが生み出され、無機酸が発見されました。これらは化学的な触媒として使われたり、様々な混合物や化合物を生み出し、それが火薬や各種の化学物質の発明へと繋がっていきます。
私は無類のコーヒー好きですが、毎朝コーヒーを淹れるために使うサイフォンも、錬金術の蒸留技術の探求から生み出されたものです。
非金属を金に変成させるという物質的な技術の追求が化学の発展に寄与したのに対して、錬金術のもう一つの側面である精神的な面は、哲学や宗教に大きな影響を与えました。錬金術の主目的は、金を作り出すことにあったわけですが、それが次第に不老不死の霊薬の生成へと比重が移り、さらに精神的な方向へと移っていきます。
キリスト教が導入されて以降の西洋では、肉体と精神は別のものととらえられるようになりました。肉体の死は逃れようのないもので、それを求めるのではなく、魂の不死と幸福を求めるようになったのです。錬金術によって清められ、高い精神性を持った魂は肉体が死ぬと天国へと召され、そこで至福の世界に暮らすと考え、そのための精神技法が磨かれていったのです。
いっぽう東洋では、肉体と精神は不可分のものであると考え、肉体の不死を追求します。そして、肉体の不死をもたらすためには精神の高度な修養も欠かせないとして、その技法が発展していきます。
錬金術は、中国では道教と結びつき(道教では「煉丹術」と呼ぶ)、インドではヨーガやタントリズム、ヘレニズム時代のエジプトではグノーシス、イスラム諸国ではヘルメティズムおよびエソテリシズム、西洋の中世とルネサンス期ではヘルメティズムやキリスト教とその分派の神秘主義、それにカバラといった、秘教的(エソテリック)なものと結びついてきました。それらは変遷していく宗教各派に後々まで受け継がれていきます。
錬金術では、金と水銀が特別なものとされます。それは腐食しない金が完全性と不滅性の象徴であり、水銀が赤い辰砂(硫化水銀)を加熱して得られるところから、血液と変成の象徴と考えられたからでした。とくに辰砂を生命力の源とする信仰は、すでに新石器時代後期には出現し、遺体に辰砂がかけられている例が広く世界中で見つかっています。日本や朝鮮半島に多い装飾古墳も辰砂を使った赤い彩色が目立ちますが、これも同様です。『出エジプト記』には、モーセが金の子牛を粉々に砕いて水に混ぜてイスラエルの人々に飲ませる場面がありますが、これは不滅である金を取り込むことによって不死をもたらすという意味が込められていました。
また、金と水銀に加えて、水も重要な元素として位置づけられます。「生命の水(アクア・ウィタイエ)」はアルコールと同時に水そのものも指します。エジプト、ギリシア、ヘブライの創造神話では、水はあらゆるものの種子を含んだ第一実体とされ、水から生命が生み出されたとされます。洪水神話は破滅と生き残りの物語ではなく、生命の原初である水へと回帰してそこから再生するという物語です。洗礼式で用いられる水も再生と不死の源という意味が込められています。
>>>>>続きは「聖地学講座メールマガジン」で
最近のコメント