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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.97
2016年7月7日号
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◆今回の内容
◯聖地と景観
・ドリームタイムとソングライン
・景観から意味を読み解くセンス
◯お知らせ
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聖地と景観
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2002年に開設して、その後なかなかメンテナンスできなかった「レイラインハンティング」サイトを「聖地観光研究所・レイラインプロジェクト」としてリニューアルしました。
http://www.ley-line.net/index.html
開設から15年あまり経ち、その間に『レイラインハンター』の出版や講座・講演活動、さらにレイラインハンティングによる地域活性プロジェクトなど、当初は地図遊びではじめたことがいつのまにか本格的な仕事となっていました。そんな実情に合わせ、あえてタイトルも変えて再出発することにしました。
この15年の間に、スマートフォンやタブレットも登場し、webブラウジングのスタイルもだいぶ変化して、プログラムも高度になりましたが、なんとか自力でレスポンシブなものに仕上げましたので、様々な環境でストレスなくブラウジングできるようになっています。これから、整理しきれていないアーカイブも収録しつつ、最新の動向などもお伝えしていきますので、ぜひご贔屓にしてください!
ところで、前回の配信の翌週、6月21日は夏至でした。この日、私は福島県いわき市の白山神社で夜明けを迎えました。梅雨の最中とあってどんよりと雲がかかっていてご来光はほとんど諦めていたのですが、なんと日の出の時間だけ水平線の雲が晴れて、参道の真ん中から昇る朝日を拝することができました。
いわき市では、昨年から聖地調査とレイラインハンティングのワークショップを行ってきました。さらに、観光ビューローの若手を中心に「いわきレイライン探検隊」が組織されて昨年の冬至と今年の春分に引き続いて、この日もメンバーが手分けして夏至のポイントへ向かい、それぞれのポイントで夜明けを待ちました。
いわき市でももっとも古い社の一つである大國魂神社は、その本殿と境内から北東に500mほど離れた畑の中にある甲塚古墳が夏至の日出と冬至の日入りを結ぶラインにあります。そこで待機していたメンバーも、甲塚の天辺から昇る太陽を見事に写真に収めることに成功しました。
古の人たちが太陽の運行に合わせて設計した聖地で、まさに設計通りの景色と対面すると、現代に生きる私たちも古の人たちの意識にシンクロして、彼らが自然の営みをいかに実感して生活していたのかが理解され、自分も自然の大きなリズムの内に生きていることに感動させられます。
太古、文字がなかった時代には、こうした光景が演出される聖地にみんなが集うことで、深い共通体験を胸に刻み込んで、それが社会を統合するコンセンサスに繋がっていたのでしょう。
文字で表せば、「方位角60°の方向に伸びる参道の真ん中から夏至の朝日が昇り、その一条の光が一の鳥居、二の鳥居と潜って、本殿まで導かれる」ということなのですが、そんな理屈ではまったく説明が足りない、感覚を大きく揺さぶる体験が現場にはあります。特別な場所で特別な瞬間の光景をともに体験することは、言葉で分かり合うよりもはるかに深い共感をもたらしてくれます。
今回はそんな感慨を出発点として、聖地と景観について考えてみたいと思います。
【ドリームタイムとソングライン】
オーストラリアの先住民であるアボリジニの創世神話は「ドリームタイム」と呼ばれます。
アボリジニの祖先は、大地が形成されるとすぐ、地中から様々な動物の形をしたトーテムとして地上に現れたと伝えられています。彼らは地上をさまよいながら、今の人間と同じように、生活し、遊び、狩りをし、子供を産み、死んでいきました。そんな彼らの痕跡は、岩や洞窟、湖、その他いろいろな特徴のある地形になって残り、最後にはアボリジニの祖先たちもアボリジニをこの世に生み出したのちに、固まって様々な地形になりました。それがドリームタイムです。ドリームタイムは大地創造の時代であり、日本神話でいえば、イザナギとイザナミによる「国生み」の時代ともいえます。そして、国生み神話と同様の大地にまつわる壮大な物語が残されました。
ドリームタイムが日本の国生み神話と異なるのは、ウルル(エアーズロック)やカタ・ジュタ(アボリジニの言葉で「多くの頭」の意味。マウント・オルガ)といった特別神聖な聖地とされたところだけでなく、オーストラリアの大地に刻まれた大小様々な地形が、すべてドリームタイムの物語を伝える重要な聖地と考えられてきた点です。さらに、ドリームタイムの時代に放浪していたアボリジニの祖先たちは、細かな聖地を結ぶ特別なルートを無数に持ち、それを伝えました。そのルートは"ドリーミング・トラック"あるいは"ソングライン"と呼ばれています。
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