PHOTO: Y.Morinaga I.Uchida
昨年の昭文社「ツーリングマップル」の取材ではKTM1190ADVENTURE(以下、ADVENTURE=ADVと表記)を相棒に6000kmあまりを走った。
http://obtweb.typepad.jp/obt/2014/09/ktm-1190adventure.html
1190ADVは、KTMが満を持して本格的なアドベンチャーツアラーを標榜して作り上げたモデルで、その完成度は非常に高かった。ところが、今年はこの1190をコアに、よりラグジュアリーで快適方向に振った1290SUPERADVと、逆にダウンサイジングエンジンにシェイプアップした1050ADVをランナップに加えて、オールラウンドなアドベンチャーツアラーが一気に3種類になった(よりオフロード向けに振った1190ADV-Rを加えれば4種類)。
この数年、KTMはオンロードシーンでもオフロードシーンでもラインナップを拡充させ、またスウェーデンの名門ハスクバーナも傘下に収めて、ハスクバーナブランドでもアグレッシヴな展開を見せている。ラインナップをこんなにも一気に拡大させて大丈夫なのかと心配になってしまうほどだが、どのモデルを見ても、その分野のファンなライダーを最高に満足させるだけのパフォーマンスを実現しているのだから恐れいる。
個人的には、昔、ヤマハのTT600でBAJA1000に出場したときに、ひょんなことからハスクバーナワークスにお世話になり、いつかはハスクバーナでBAJAに復帰と思い続けていたので、ハスクバーナの大排気量エンデューロマシンのPVなど眺めて、どいつでBAJAに復帰しようかと、夢を膨らませている。
それはさておき、今年のツーリングマップルの取材では、せっかく3種類のアドベンチャーツアラーが揃ったのだから、それを乗り比べて紹介しようと考えた。
今年の夏は、台風が隔週で本州に上陸するような生憎の天気が続いた。ツーリングマップル本体の取材としては少々不本意なコンディションだったが、ライディングのほうはすこぶる楽しく、昨年も好印象を持った走行シーンによってセッティングを変化させるセミアクティブサスやよく吟味されたウインドプロテクションなどのおかげで、荒天下でも安心して取材を続けることができた。そして、貴重な晴れ間には、スロットルをワイドオープンにして、雄大な中部北陸の自然の中を駆け抜けた。
簡単ながら、三種類のツアラーを個別にインプレッションしてみよう。
【1290SUPERADV】
順番でいくと、はじめに1050ADVを走らせ、次に1290ADVだったのだが、いちばん長距離を走った1290ADVを筆頭に紹介する。
1050ADVをKTMジャパンに返却に行き、その場で1290ADVに乗り換えたのだが、感覚的に二回りくらい車格の大きい1290ADVが、乗り出した瞬間に1050ADVもずっと軽く感じたことにびっくりさせられた。
ビルの谷間で音が響きやすい場所なので、あまりスロットルを開けずにゆっくりスタートしようとしたのだが、クラッチが繋がり始めるとすぐに重いはずの車体が軽々と動き始めた。ハンドリングも軽く、低速で切り返すのに抵抗をまったく感じない。それまで乗っていた1050ADVもリッターバイクにしてはとても軽い動きを見せていたので、それより明らかに軽快な挙動の1290ADVには何か特別なカラクリがあるのではと思ったほどだ。
その軽快さの秘密は、エンジンが大きいだけ低速トルクが太いことに加え、車体の重量バランスがいいためだろう。1050ADVもけしてフロントヘビーなわけではないのだけれど、1290ADVはよりマスが中央に集まっていて、アップライトなポジションも相まって、フロントが軽く感じられるのだ。
この軽快な印象はどんな走行シチュエーションでも感じられた。車格からいえば三車の中ではいちばん重く感じられるのが普通なのに、印象はもっとも軽いモデルに思える。この性格は、長距離を走ると疲労感の違いとなって現れる。グリップヒーターやシートヒーター(夏場でオンにする機会はなかったが)、クルーズコントロールといった快適装備とも相まって、この軽快さはロングツーリングを意識したセッティングなのだろう。
ただし、取り回しとなると、他の二車に比べると車格の大きさを感じる。舗装路で押し歩きするような状況では不自由は感じないが、荒れたオフロードでバイクから降りて押し引きするようなことになると、ハンドルが遠く、車重を意識させられることになる。もっとも、このバイクでそんなシチュエーションに踏み込んでいくようなニーズがあるとも思えないが。
エンジンは、低速トルクが太い上に、中速から高速まで一気に吹き上がって、気持ちいいことこの上ない。しかも、全域でトルクが感じられて、ただスピードが乗っていくのではなく、ピストンの動きが確実にタイヤをトラクションさせていくビート感をともないながらグイグイ加速していくのは、いかにもレーシングエンジンで興奮させられる。
高速巡航に入ってスロットルをパーシャルにしている間は、振動も少なく、ウインドプロテクションも最大限に効いているので、平穏そのものだ。1190ADVや1050ADVでは、こうした高速巡航のときにも、スロットルを開ければ瞬時に反応するぞといわんばかりに、エンジンのビート感が伝わってくるが、それが抑えられているのは、1290ADVがグランドツアラーと位置づけられていることの証ともいえる。
気候、積載状況、路面状況に合わせて細かく設定できるセミアクティヴサスペンションは、昨年の1190ADVよりもさらに洗練されて、1290ではより自然な動きを見せるようになった。とくにコンフォート設定時のストレスの少なさは、やはりグランドツアラーの真骨頂といえる。
ウェットコンディションでエンジンのピックアップを抑える設定は、昨年も絶妙に感じたが、よりパワーアップしトルクフルになった1290ADVでは、大きな安心感をもたらしてくれる。なにしろ160PS、140N・mというフルスペックのエンジンだけに、これをそのまま解き放っては、ウェット路面では少しのスロットルワークのミスでいとも簡単にリアがスキッドする。かといって、単純にウェット路面でスロットルを絞るような設定では、もたつきが感じられて、体重移動のタイミングとズレが生じてしまう。そういった違和感を一切感じさせず、多少ラフなスロットルワークをしても、しっかりとトラクションする設定は、レーシー志向のKTM初心者でも安心して乗れる。
アルカンタラ風のバックスキン地のシートのタッチや形状も絶妙で、ポジションがしっくり決まり、長距離でのストレスもミニマムだ。
荷物を満載して超長距離を走り、荒れた路面でも臆することなく進んでいくグランドツーリングとオールラウンダーの要素を合わせたマシンとしては、今、最高峰にあると断言できる。
【1190ADV】
1190ADVは昨年長旅をともにした相棒でもあるので、馴染みのあるバイクだが、今年、KTMが用意してくれたのは、フォグランプやスペシャルシート、軽量レバー等々のパワーパーツを纏ったカスタムで、ノーマルとはだいぶ印象が異なって感じられた。
特筆なのは、パワーパーツとしてオプション設定されるシートだ。表面がエンボス加工された生地は、ノーマルに比べ滑りにくく、エッジがとれた形状は体重移動が自然かつスピーディにできて、とても自由度が高く感じられる。このシートのおかげでバイク自体が数段コントローラブルになったように感じられる。また硬さも絶妙で、長距離走っても尻や腰が痛くなることはなかった。このシートは、今まで自分が座ってきたシートの中で、いちばんの出来だった。自分が1190ADVを購入したら、何はさておき、すぐさまこのシートに換装する。
パワーアウトプットやトラクションコントロール、セミアクティヴサスのセッティングは、昨年も強く印象に残ったように、モードを切り替えることではっきりと変化して、ロードやオフロード、ドライやウェットといった個々の環境で別なバイクに乗っているようで、それぞれ楽しめる。
1190ADVはロングツアラーでありながら、オフロードにも積極的に踏み込んでいく気にさせる。またトップケースだけ装備して、日常の足として使うのにもちょうどいい車格といえる。スポーツモードにすれば、固めのサスでオンロードをアグレッシヴに攻めても楽しい。
どんなシチュエーションでもファンな走りを楽しみたいというニーズを最大限に満たしてくれる。
【1050ADV】
他の兄弟に比べると、快適装備は省かれ、センタースタンドもなく、すっきりとスリムにまとまった車体にいちばん排気量の小さな(といってもリッターバイクに変わりないが)エンジンを搭載する1050ADVは、単純に考えれはKTM-ADVENTUREシリーズのエントリーモデルだが、じつは三車の中では、もっともファンな性格を持っている。
冒頭、1290ADVが1050ADVよりも初動が軽く感じると書いたが、それは同じようなスロットル開度で静々とスタートしたときの差で、1290ADVよりもピーキーな性格の1050ADVのエンジンをより高回転でスタートさせれば、軽量な分、よりロケットスタートライクに飛び出していく。そのとき、電子デバイスの助けはないから、適度にリアがスピンする感覚も味わえる。
当然ながら、車格はいちばんコンパクトで車重も軽い。だから、思い通りに「振り回す」といった乗り方が合っている。ある意味、KTMらしいヤンチャさをもっとも味わえるモデルといえる。
今、よりオフロード向きに振ったモデルとして1190ADV-Rがあるが、個人的には、この1050ADVにフロント21インチ、リア18インチのホイールを履かせたら、よりオフロードを楽しめるバイクになるのではないかと思う。
ストックのままではなく、あちこちカスタムすることで、自分好みのバイクに仕上げていく楽しみがある。その意味では、ビギナーよりも、ファンなライダーがカスタムの素材として選ぶのにいちばんマッチしているかもしれない。
長距離のツーリングは、当然ながら1290ADV、1190ADVに一歩譲る。日常の足としては、取り回しが軽く、いちばん気軽に乗りこなせるモデルだ。
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