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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.40 2014年2月20日号
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◆今回の内容
1 大雪にまつわる徒然
・現代文明への警告?
・大室山「五智如来地蔵の謎」
3 お知らせ
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大雪にまつわる徒然
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【現代文明への警告?】
2月に入って、首都圏と甲信は二度も史上空前のドカ雪に見舞わ
れました。
今週末は、いつもお世話になっている白馬のペンション「ミーテ
ィア」をベースに、スノーシューイングイベントを予定しているの
で、オーナーの福島さんに様子を尋ねたところ、「白馬は、先月ま
で例年より雪が少なかったけど、この雪で例年並みになったよ」と、
あっけらかんと言われてしまいました。
雪国では何でもない日常が、雪にあまり馴染みのない地方では大
災害になってしまう。それは、日本の自然が多様であり、個別に異
なるその自然環境によって育まれた文化や人の意識も大きく異って
いるということでもあります。
雪国の人にとっては、大雪が予想されているのに、いつもと変わ
りなく外出したり行楽に出かけることは「非常識」に見えるでしょ
うし、1mあまりの積雪で交通が遮断されて、集落が孤立してしまう
のは、雪に対するインフラがあまりにも貧弱すぎると映るでしょう。
一方、「生まれてこのかた、こんな雪は経験したことがない」と言
う80代、90代の老人が住む地方では、こんな雪こそ「非常識」極ま
りないものです。しかし、自然に対して、「非常識だ!」と責めて
もどうしようもありません。
今回の大雪が告げているのは、こうした思いもかけない異常な事
態が、これからは常態化する大変動の時代になったということです。
ある自然条件の元に育まれた文化が、越境してくる異質な自然に対
して役に立たなければ、それに合わせて自分たちのライフスタイル
と意識を変えていくしかありません。3.11のような予想をはるかに
越える災害にもまた見舞われるでしょう。その時のために、覚悟を
きめておく必要もあるでしょう。
今から1000年あまり前、ちょうど3.11と震源を同じくする同じ規
模の貞観地震が東日本を襲いましたが、その前後も、大きな気候変
動と自然災害が続く時代でした。奈良から平安時代にかけてのこの
時代には、自然災害は荒ぶる神々の祟りであると考えられ、これを
鎮めるために、黄金に輝く巨大な大仏が建立されたり、大伽藍を造
営して、多くの僧に祈らせたりしました。庶民の間には終末思想が
広がり、これを助長する運動や宗教がはびこり、逆に終末思想を乗
り越えるための新たな宗教思想が生まれたりしました。最澄や空海
が登場して、日本独自の密教が確立されたのもまさにこの時代です。
そんな前回の大変動時代から1000年経ち、今の私たちは目を瞠る
ような進んだ科学技術を獲得しました。しかし、その技術では、3.11
の地震を予知することはできず、フクシマのカタストロフィも食い
止めることができませんでした。雪国にとっては珍しくもない積雪
で、文明の中心地である首都圏は大混乱に陥ってしまう。そもそも、
今回の大雪をもたらした気候変動は、膨大なエネルギーを消費する
現代文明に起因する可能性が高いわけです。果たして1000年前より
人間は賢くなったのか、首を傾げてしまいます。
1000年前に荒ぶる神々を畏れて築かれた聖地は、いまだに往時の
雰囲気を湛えて、当時の人たちの思いを現代にまで伝えています。
1000年前の自然をそのまま残している多くの神社、建築や絵解きの
曼荼羅で宇宙と人間との関係を表現する古刹、そうした聖地の内に
入ると、大きなものに抱かれている安らぎに包まれます。
世界を見渡すと、古代に生まれた文明が微かな痕跡を残すだけで
消え去ってしまった例はたくさんあります。砂に呑み込まれて跡形
もなくなったメソポタミア、同じく砂漠に埋もれた古代エジプト、
密林に呑み込まれたアンコールワットや南米のオルメカやインカ、
マヤ…それらと比較すると、日本の古代の遺跡が原型をとどめるば
かりか、1000年前の寺社がいまだに繁栄し、人に安らぎを与え、貴
重な思想を伝えているのは、稀有なことといえます。
せっかく、そんな文化の遺産を継承しながら、今の私たちが1000
年後に残せるものは何かと考えると、暗い気分になってしまいます。
フクシマがもたらした汚染処理と人間が住めない広大な土地、地下
資源を掘り尽くして破壊された自然、殺伐とした都市廃墟…そんな
ものしか1000年後に残せないのだとしたら、今の私たちが恩恵を受
けている科学技術というのは、いったい何なんでしょう。
今回の大雪は、3.11に匹敵するような、あるいはそれを上回るよ
うな大災害が間近に迫っていることを告げる荒ぶる神の警告のよう
な気がしてなりません。破局的な大災害に晒された後でも、将来に
負の遺産を残さず、自分たちの経験をしっかりと1000年後まで伝え
られるような社会を急いで作らなければならないと、痛切に感じて
います。
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