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◆今週のメニュー
1 聖地の歴史
化石人類から円空へと続くゲニウス・ロキの表象
自然聖地としての洞窟から人工聖地の巨石文化へ
2 コラム
聖地を活かした町興し
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聖地の歴史
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【化石人類から円空へと続くゲニウス・ロキの表象】
猛暑が続いていますが、夏バテなどしていませんか?
私は、何の因果か暑い盛りにオートバイを走らせて、ツーリング
ライダー向けの情報マップの取材に出ております。先週も一週間、
若狭から白山周辺、富山と巡ってきました。
この仕事を始めてから10年が経ちますが、例年、与えられたテー
マとは別に自分独自のテーマを決めて、担当の中部北陸地方を巡っ
ているので、この地方の歴史や文化を重層的に眺められるようにな
ってきました。この数年は、現在の岐阜県美濃の出身で、全国を行
脚しながら12万体もの木彫りの仏を作った円空の足跡を追いながら
(出身地である岐阜周辺がいちばん多い)、円空が個々の土地の持つ
見えない力(ゲニウス・ロキ)を可視化するために仏を彫っていたの
だと確信するようになりました。
http://obtweb.typepad.jp/obt/2010/09/kannon.html
http://obtweb.typepad.jp/obt/2010/09/hito.html
円空の足跡を追っていくと、上のリンクのコラムで紹介した『歓
喜する円空』の最後に梅原猛が記した、日本の神々の流竄の様子に
心が痛むと同時に、円空によって顕にされた各地のゲニウス・ロキ
は完全に消え失せてしまったわけではなく、まだその残滓をとどめ
ていると実感できます。
体を風に晒しているオートバイは、巡っていく土地の雰囲気の変
化を全身で繊細に感じます。ある場所で他とは異なる雰囲気を感じ、
そのときは漠然としていて言い表すことのできなかったものが、円
空がかつてそこで彫った仏と出会うと、言葉にできない様々な雰囲
気がそこにはっきりと現れていたりします。そんなとき、「ああ、
円空も自分と同じ雰囲気を感じ取っていたんだな」と、円空という
人物にますます共感が深まっていきます。
いずれ、自分でも訪ねた土地で、木っ端を拾い、そこにその土地
のゲニウス・ロキの姿を浮き彫りにしてみたいと思っています。
ところで、つい先日、WIREDで報じられた「ネアンデルタール人の
作品? 洞窟壁画のギャラリー」という記事をご存知でしょうか。
http://wired.jp/2012/07/24/neanderthal-cave-paintings/
バルセロナ大学のジョアン・ジルホーと英国ブリストル大学のア
リステア・パイクを中心とする研究チームが、スペイン国内の11の
洞窟内にある50点の壁画の年代を測定し、その結果を6月14日付けの
『Science』誌に発表したもので、ウランの放射性崩壊を元にした最
新の年代測定法によって、多数の壁画が4万年あまり前に描かれたも
のと推定されたのです。
以前から、フランスのショーヴェやラスコーの洞窟壁画がネアン
デルタール人の手によるものではないかという説がありましたが、
今回の年代測定が間違いなければ、ネアンデルタール人が豊かな芸
術表現の能力を持っていたことが証明され、彼らの謎の精神世界を
解明する糸口になります。
約20万年前に地上に登場し、3万年前頃に突然絶滅してしまうネア
ンデルタール人は、現代人の直接の祖先であるクロマニョン人とは
系統を別にする人類で、どうして突然クロマニョン人と入れ替わる
ように絶滅してしまったのかが謎となっています(私の大好きなジェ
イムズ・P・ホーガンの名作『星を継ぐもの』では、驚愕の説でその
謎解きがなされています。ぜひ、ご一読を)。
かつては「猿人(the ape man)」と呼ばれていたネアンデルタール
人は、大脳の容積が平均で1600ccを越え、現代人よりも大きな脳を
持っていました。彼らの脳が類人猿よりも著しく大きくなったこと
で、彼らには明確な意識の増大が起こります。そして、葬送や宗教
的儀礼が生み出されます。
イスラエルのカルメル山麓にある彼らの埋葬地からは、胎児のよ
うに丸まった遺体にイノシシの顎の骨が捧げられていました。イラ
ン北部のシャニダーの埋葬地からは、一人の男の遺体の上に花が置
かれ、さらに傍らに殉死した二人の女と子供の遺体が発見されまし
た。花粉を分析すると、供えられた花は薬草で、男はシャーマンだ
ったと推定されています。この二つの例は、いずれも6万年前のもの
です。
また、ネアンデルタール人はホラアナグマの頭蓋骨を崇拝対象と
していました。ヨーロッパアルプスの各所で、小さな洞窟の中に礼
拝所と思われる祭壇が見つかっています。そこには、ホラアナグマ
の頭蓋骨が祀られていました。
彼らの主要な獲物であるホラアナグマを神として祀り、その魂を
あの世に送り返す。こうした獲物の葬送儀礼ともいえるものは、ア
イヌのイヨマンテ(熊送り)と同じで、シベリアの少数民族、ネイテ
ィヴアメリカンなどの狩猟民族にもいまだに残されています。
狩猟民たちは、この世にある血と肉をいただき、魂をあの世に送
り返すことによって、再びこの世で血と肉をもたらしてくれること
を祈ります。他の生命を頂くことで自分の生命を維持する。それを
意識しているからこそ犠牲となる命への感謝が生まれ、魂の集まる
ところとしての「あの世」を明確に意識するようになる。命に対す
る感謝も精神=霊の世界のイメージも失ってしまった今の社会と比べ
ると、10万年も前のネアンデルタール人の社会のほうがはるかに人
間的であったといえるかもしれません。
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