ときどき、「この人は凄いな」と唸らせられることがある。今日、とあるミーティングで初めて会ったOさんも、そんな人の一人だった。
「プランナー」という肩書きのOさんは、政府や自治体にアピールするための企画書を作るプロで、とある映像コンテンツを行政に売り込むための企画をサポートしてくれる。
行政側の人間のものの考え方やら、書式にする際のポイントなどをレクチャーしてくれながら、彼が必要とする情報を丁寧で繊細な物腰でヒアリングしていく。ときに、突き放して客観性を保とうとし、ときにコンテンツの中身について自分も身を乗り出して、情熱的に語る。
すでに、この段階で、行政へのプレゼンテーションの本番に臨んでいるような気分になって、ミーティング全体が引き締まり、そしてとてもクリエイティヴになる。
自分の職務をベストに遂行するために、場を和やかにしつつ、締めるところはしっかり締める。
ぼくの担当はコンテンツのプロットを考えることなので、今回のテクニカルな側面に焦点を当てたミーティングでは主題ではなかったこともあって、ほとんど聴き手にまわり、Oさんの話術やミーティングを非常に効率良く、的確に進めていくロジックにすっかり感心してしまった。
何より、この人が「本物だな」と思わせるのは、非常に腰が低く、「個性」を前面に出さないことだ。「見習わなければな…」と、つくづく思った。
自己主張の強い人は、何か物事を行うときに、それを行うことの結果として自分がどう評価されるかということに目が行く。人目を気にして、効果的なことばかりを追うので、できることの範囲が狭く、新しいことをやっても突き抜けることがない。Oさんのようなプロは、「自分」よりも対象物である「物事」のほうに興味を持ち、プレーンな姿勢で臨むので、自分でも意外な創造的な結果を出す。そうした、好奇心がすべての物事の先頭に立っていることが端から見える人は、一緒に仕事をするととても楽しい気分になる。
そういえば、ツリーイングインストラクターの同僚であるTさんもまた凄い人だ。ぼくより少し年上の50代半ばの彼は、叩けば叩くほど、面白い体験談が飛び出してくる。
彼も、いつもにこにこしていて低姿勢で、自己主張をしない人だ。だけれど、植物のことを聞けば生き字引のごとくすぐに答えてくれる。小柄であまり力もなさそうに見えるのだけれど、チェーンソーメーカーのデモンストレーターだったりもする。
若い頃、3年あまり世界を放浪して、その頃から30年経った今も体型が変わっていないという彼は、ツリーイングの現場にやって来るときには、奇妙なサイケ柄のTシャツが定番で、放浪時代に着ていたものなのだという。
それを見て、「Tさん、そうとうラリパッパしてたでしょ、若い頃」と、からかうと、ムキになって「ドラックなんて、そんなにやってませんでしたよ」と否定する。でも、「ペヨーテとか、はまってたんでしょ、居留地に何ヶ月も入り浸っていたってことは」と、畳み掛けると、いたずらを咎められた子供のように気まずそうに苦笑する。
もっとも、彼の放浪時代はヒッピーばかりしていたわけではなく、インドのマハラジャの息子の命を救って国賓待遇の歓待を受けたり、学習院のエベレスト登山隊に加わって、サウスコルまで荷揚げしたりと、ドラマチックな体験にあふれている。
小柄で体重も軽く、体格的にも性格的にも「マッチョ」と正反対にある彼が、その体験談を聞くと、そこいらのマッチョなど足元にも及ばない。
そのTさんが、先日のイベントの時にやつれた表情だったので、「どうしたの?」と聞くと、上海とシンガポールの工場を行ったり来たりしていて、日本に帰ってくるほうが出張みたいな生活で、疲れがとれないという。さらに、彼が働いている厨房機器製造の会社がベトナムに大きな工場を作ることになって、その工場の責任者に抜擢されそうなのだという。そうすると、これから10年くらいは日本に戻れないのだと。
「ベトナムでは屋敷暮らしなんでしょ、だったらそこでツリーイングやればいいじゃない。いつでも、手伝いに行きますよ」と言うと、やつれた顔が急にシャキッとなって、子供のように目を輝かせた。
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