*大湯・万座遺跡から黒又山。写真は中心からやや左方向にずれた位置から撮影。方位角46°58′方向に2000m離れて黒又山がある。ちょうど仰角で一致する遠くの山の端は奥羽山脈矢筈山**
■花崗岩について■
登山の途中、岩のテラスやテーブル状の岩塊を見つけると、思わずその上に寝転がりたくなる。日に照らされて熱を帯びた岩は、その上で横になると、岩の奥深くまで染み込んだ暖かさがじんわりと染み出してきて、それが体に移り、全身が弛緩するようなうっとりした気分になる。クライミングで汗をかいた後などは、そのまま小一時間も眠ってしまうこともある。
こうした、岩に身を委ねる心地良さはいったい何なのだろう? しかも、こうしたうっとりした気分になる岩はきまって花崗岩で、何故、花崗岩にはこうした人体の沈静化作用のようなものがあるのか、ずっと疑問だった。
ゲーテは『花崗岩について』というエッセイの中で、花崗岩は地球の深部で形成され、地上に露出している部分もその根は地球の中心に繋がっていると語る。そして、花崗岩の上に立てば、地球の意識に触れることができるのだと…。
「この世界を統べる奥底の上にじかに建てられたこの祭壇で、私は万象の本体のために犠牲を捧げるのだ。われらの存在のもっとも確かな始原の姿に、私は今触れている…」
ゲーテは20代半ばにワイマール公国の顧問官としてイルメナウ鉱山を視察したのをきっかけに鉱物に興味を持ち、生涯にわたって1万9000点ものサンプルを収集した。ゲーテは詩人、作家としてはもちろん、自然科学にも造詣が深かったことが知られている。植物のメタモルフォーゼや色彩論をテーマにした著作もあり、なかでも鉱物は自然科学者としてのゲーテにとっていちばん傾倒するテーマだった。とくに花崗岩に対する思い入れが強かった。
花崗岩の大岩が形作る天然のテラスの上で恍惚としてみれば、根源的な何かと触れ合っているという感覚とそこから来る深い安心感は実感できる。ゲーテのように精神のメタモルフォーゼがもたらされるほど強烈ではないにしても、ゲーテの表現に限りない共感を覚える。
そして、花崗岩といえば、太古の遺跡は花崗岩を素材としているものが多い。
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