■肩周りの動きを妨げないためとシーリング効果を高めるためにスリーブはラグラン。立体裁断と独特のパタンを組み合わせて、動きやすい生地特性を最大限活かすフォルムになっている。身長178cmのぼくではXLサイズはやや大きめな感じ。伸縮性がある生地なので、Lサイズでタイトに着るのもいいかもしれない■
ぼくが山登りを始めた35年前、当時は今のゴアテックスのような防水透湿素材を使ったオールウェザーのウェアというものは存在せず、レインウェアはゴツいゴム引きナイロンで、冬用のアウターはこれまた重いナイロンタフタを二重にしたようなものしかなかった。ゴム引きのレインウェアはまったく汗を排出せず、これを着て行動しているとサウナスーツを着ているようなもので、逆に冷たい雨のシャワーを浴びたほうがよほどいいというような代物だった。
ナイロンタフタのアウターは、中にウールのシャツやらセーターやらパンパンになるまで着込んでも生地自体が冷えてその冷たさが染みこんできた。また、雪が付着してそれが溶けると水が染みこんで、そこにブリザードでも吹けば凍りついてしまった。
だが、それも今は昔。水滴よりも小さく汗の蒸気よりも大きい孔が無数に空いた多孔膜を生地にラミネートしたり(ゴアテックスファブリクスはその代表。フッ素多孔膜であるゴアテックスフィルムを二枚の生地の間にラミネートしている)、生地自体に特殊な樹脂をコーティングして多孔膜の性質を持たせる防水透湿素材が開発され、レインウェアの蒸れも格段に改善され、冬用のアウターも軽く高性能になった。
当初、フッ素系の多孔質フィルムは脆く、冬山での滑落停止訓練などで膜が裂けて使い物にならなくなることがあった。それもどんどん改良され、今では強度も耐久性も高くなって、かなり満足できるものとなった……というよりも、他に選択肢はなく、最新型の防水透湿ウェアが最高のものであるという認識を持たされていた。
ところが、ファイントラックは、行き着いたかに見えた防水透湿素材の世界をブレイクスルーする製品を発表した。
フッ素系多孔質フィルムの弱点は、伸縮性がないのと油分や紫外線、高温多湿といった悪条件に暴露されつづけると性能が低下するという点だった。過酷な条件で使用し続けると2,3年で防水性能が低下してしまう。
伸縮性がないという問題は、ラミネートする際に皺を寄せて表裏の生地の伸縮に合わせて、ちょうど蛇腹が開いたり閉じたりするようにして対応し、激しいスポーツの動きに追従する工夫がされていた。だが、この手法では多孔膜を大きく取る必要があり、フィット感がルーズになるのと、ウェアの重さが重くなってしまうという欠点があった。
ファイントラックが新たに開発した"エバーブレス素材"は、フッ素系の多孔膜ではなく、ポリカーボネートを含むポリウレタン多孔膜。これはフィルム自体に伸縮性があって、いわゆる縮み加工をする必要がなく、紫外線や油分、さらに経年変化による性能劣化も驚くほど少なくなっている。
その結果、とても軽く激しい動きにも追従する全く新しいオールラウンドアウターが誕生した。それが、"エバーブレス バリオ ジャケット"。
今回、代表的なフッ素系多孔膜を使ったレインウェアと冬用アウターと比較したが、レインウェアよりも防水透湿性が高く蒸れにくく、ウインター用アウターよりも蒸れないのはもちろん、遥かに軽い分、動きが非常に楽なのが印象的だった。
厳冬期は別として、これならオールシーズンのレインウェア兼アウターとして気兼ねなくハードに使えそうだ。
■しっかり鍔の張り出したフードは、フロント側2本と背面のドローコードで、ぴったりとフィットさせる事ができる。ドローコードの取り回しといった細部も邪魔にならずアジャストしやすい気遣いがみられる■
■ザックのショルダーベルトに干渉しない位置に設けられた開口幅の大きいリンクベント。ダブルスライダージッパーで、きめの細かい喚起ができる。止水ジッパーと裏側に設けられたフラップで浸水の心配もない。リンクベントからは大型のインナーポケットにアクセスできる■
■動きの滑らかな止水ジッパーとニット地のベースレイヤーやインナーグローブに引っ掛けても伝線しにくいベルクロを採用し袖口■
■表地は20デニールの糸を緻密に編みこんだダブルリップストップナイロンにファイントラック十八番の超撥水加工が施される。ガスの中を歩いても細かい水滴が玉になって付着するだけなので、身震いすればすべて落ちてしまう。裏地は肌触りの優しいナイロントリコット■
■注目の重量比較。一番上がエバーブレスバリオ、二番目が代表的なフッ素多孔膜ラミネートのレインジャケット、三番目が同じくフッ素多孔膜ラミネートのウインター用アウター。レインジャケットとは2g差だが、サイズがこれのみLサイズなので、同じXLサイズで比較したら30g以上エバーブレスバリオのほうが軽くなっただろう。ウインタージャケットとの比較では、その差は唖然とするくらい歴然だ■
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