台風12号が通り過ぎ、何故かまた本州南部は太平洋高気圧に覆われて晴天が続いた。
2012年版のツーリングマップル実走取材の最終回は、ちょうどこの晴天に重なって、昔の気持ちのいいツーリングを彷彿させた。なにしろ、この数年は(今年の前半もだが)異常気象に祟られて、とても快適などとはいえないツーリングがつづいたからなあ。
今から30年前、大学3年の夏から秋は、ずっとXLで旅をしていた。「23インチのワークブーツ」と形容されたフロント23インチのSから、ヤマハXTにモノサスを先んじられて、ホンダも新たに開発したモノサスを装備したR。こいつもよく走ってくれた。
超特急で日本一周するつもりが、北海道では雄大な風景に見とれ、たくさんの友だちができて毎夜宴会するうちに1ヶ月が過ぎ、東北では妙にエキゾチックな夏祭りの風情に足が止まってあちこち梯子して、九州では神話に興味を惹かれて長居するうち、10月も半ばを過ぎていた。
「日本がこれだけ面白いんだから、世界はワンダーランドだな」なんて思って、そのまま大学なんかおん出て海外に行こうと思ったが、そんな資金がないことに気づいて再び東京に舞い戻った。
大学の同級生たちは、「なんだ、学校やめたんじゃないのか」と、顔を出したことにびっくりしていた。
広大な景色の中を走りながら、モービルのCMで鈴木ヒロミツがエンコしたクラシックカーを押す映像に被って流れた「気楽に行こうよ」と、ブリジストン…だったかな?のCMの「どこまでも行こう」の歌をいつも口づさんでいた。
高度経済成長の狂乱が少し沈静化して、それと対応したカウンターカルチャーのムーブメントも落ち着いてきて、まだバブルには5,6年の間があって……思い返せばいい時代だった。
目先の生活のことは、もうあんまり考えなくてもよさそうだから、気楽に構えて、どこまでも行こうよ、大学なんてやめちまってさ。なんて時代の風潮で、何も考えなくても、まぁなんとかなるだろうと、ほんとに気の向くままに旅をしていた。
オートバイツーリングに合わせた機能のウェアなんてなかった時代だから、登山用のジャケットを羽織って、雨具も漁師が着るごついゴム引きで、足元のほうは雨が降るとビニール袋をブーツの上から履いて、ガムテープで雨具に巻きつけていた。
みなりはみすぼらしいし、社会的にあまりオートバイが認知されている時代でもなかったから、汚らしい格好で、まして夏休みなんてとうに過ぎているのに旅をしていると、どうしようもない風来坊がいると白い目で見られた。
でも、自由だった。あんな自由はその後まったく経験したことがないくらい自由だった。
仕事も家庭のことも考える必要もなく、ガールフレンドとも半年前に別れて、しがらみなんてまったくない世界で、鳥のように自由に羽ばたいていた。
ろくな雑誌もないし、もちろんツーリングマップルも旅行ガイドもない。でも、だからこそ出会うもの全てが新鮮だった。
ちょうどあの頃と同じような爽やかな空気の中、ちょっとヤンチャなKTM990SMTなんてバイクで走っていると、いい歳して30年前の気分が蘇り、自分でも気づかないうちに、「どこまでも行こう…」と鼻歌を歌っている。
取材のことなどすっかり忘れて、とにかく地の果てまで行ってみたくなった。
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