早朝、香川県東部のある入り江まで車で走り、まっ青な海に浮かぶカタマランに乗り込んだ。 ヨットという乗り物で、海を帆走する体験はこれが初めてだ。
海に浮かぶのはシーカヤックでは慣れているけれど、ヨットといえば風を受けて横倒しになるような状態で、船ベリに座って、体重をあずけるアクロバチックな乗物という印象がある。いくら安定性のいいカタマランとはいえ、その揺れはシーカヤックの比ではないだろうと想像していた。
早朝のために薬局にも寄れず、酔い止めを飲めなかったのが心配だった。
だが船に酔うというのはまったくの杞憂だとすぐにわかった。
天気が良く、瀬戸内海はいつにも増して凪いでいたということもあるが、横幅の広いカタマランは、見事に水平で安定していて、ローリングもほとんどしない。前方から爽やかな夏の風を受けて快調に進んでいく。
はじめ、前から風を受けながらどうして進めるのか疑問だったが、スキッパーを務める映画プロデューサーの中山氏の横で解説を聞くと、得心した。ヨットのセールは、断面を見ると飛行機の翼と同じ形をしていて、翼を縦において、飛行機なら揚力がかかるところを横向きの力に変え、キールで向き変えてやることで斜めに前進できるのだという。
原理を聞いて、船の動きを注視していると、確かにその通りに動いていることがわかる。単純に帆で風を孕んでいるだけでは前進できないが、風を横向きの揚力として利用すれば、風を切って進むことができる。
こうした合理的な理屈にはすこぶる弱い。初めて体験するヨットという乗物が、俄然身近に感じられ、興味が湧いてくる。
また、船影の多い瀬戸内海では、さぞや操船が難しいだろうと思ったら、ヨットが帆走しているときは『漂流物』の扱いとなり、周囲の船のほうが避ける義務があるのだという。 そして、操船にしても、GPSと連動したオートパイロットで、目的地を設定すれば船が勝手に向かってくれるので、スキッパーの仕事としては、前方に障害物を確認したときに避けるくらいで、それも舵を切るのではなく、オートパイロットに旋回角度を入力するだけで自動的に操舵される。
想像していたよりも快適な上、操船も簡単で、何より広大な水面を自由に移動できる感覚が、じつにノマディックでいい。
このヨットは、2年前にスタートしたe4プロジェクトの一環で、この夏から瀬戸内海の島々を繋いで運航する。シーカヤックやトレッキングツアーと組み合わせたり、ディナークルーズやパーティクルーズも行う予定で、さらにカタマランではないが、中型のヨットやクルーザーもラインナップに加えていくことになっている。
今年は瀬戸内に浮かぶ5つの島々を舞台に刺激的なアートの展示やイベントが行われる『瀬戸内国際芸術祭』が開催される。このイベントに合わせたツアーも行う予定だ。
**カタマランは、非常に安定していて、ほとんどローリングしないので、ヨット初体験でもまったく不安がない**
**操船はGPSと連動したオートクルーズ**
**高松入港を前に、沖合の女木島に立ち寄る。桟橋があれば横付けし、なければビーチからシットオンカヤックで上陸する。『道路』
という限られた「線」の上を移動するのではなく、海という広大な「面」を自由に移動できるこの感覚はノマド心をたまらなく刺激する**
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