**多数のパーツを組み合わせて立体成型されたエルゴグリップのグローブは、 人間が手の力を抜いているときの少し握り気味のフォルムになっている。このフォルムが、ツッパリ感がなく、 自然なフィット感を生み出している**
オートバイに乗り始めてから30年以上、さらにMTBやロードバイクに乗り、さらに登山やクライミング、シーカヤック……これまで、 様々なアウトドアアクティビティを楽しんできた。
そんな中で、もっとも消費したギアといえば、やっぱりグローブだろう。オートバイでは、オフロードレースとツーリング、 サマーシーズンとウインターシーズンで異なるグローブを使い、バイクでもシチュエーションに合わせてグローブを使い分ける。 クライミングでもロープワークのビレイや懸垂下降では必須だし、キャンプのときには刃物を扱ったり、 焚き火を起こしたりするのにワーキンググローブは必需品だ。
今まで使い潰してきたグローブの数は想像もつかないが、だからこそ、グローブには人一倍こだわりがある。どんなアクティビティでも、 手先の繊細さは失いたくないし、同時にプロテクション性能も欲しい。そのアンビバレンツをうまくバランスしているのがいいグローブだが、 なかなか「これ」といったものに出逢うことは少ない。
今、主にウインターグローブとしてバイクやオートバイに乗るときに愛用しているのは、 香川県のさぬき市でコツコツとオーダーグローブを製作しているCACAZANブランドのディアスキングローブ。またアウトドアでは、 同じCACAZANの牛革モデルを愛用している。
CACAZANのグローブは、いずれも一枚革のシンプルなスタイルのもので、もともとオーダーしてフィット感が高い上に、 使い込むほどに手に馴染んできている。これは別格として、今、手軽なファブリック素材のグローブとして愛用しているのが、 やはり香川に本拠を置く"エルゴグリップ"だ。
あまり知られていないが、香川県はグローブ作りの国内シェアがかつては90%あまりを占め、海外でも高く評価されていた。 その伝統を守り、今でも職人技を磨き続けて、手作りにこだわっているのがCACAZANブランドを守る出石氏。一方、 エルゴグリップは製造拠点こそ中国に置くが、技術やデザインはあくまでも日本主導を守っている。
エルゴグリップの特徴は、 革と違って伸びて手に馴染むことのないファブリック素材ベースのグローブを人間の手の関節の形や筋肉の動きをサポートするように、 多数のパーツを組み合わせて作られている。
はじめはゴルフ用のグローブに応用されて、非常に薄くて軽く手にぴったりフィットする上に、グリップが効いて、 「素手のように自然で、しかもクラブに吸いつくように離れない」として評判を呼び、多くのプロ選手に愛用されるようになった。
今ではゴルフグローブの他に、そのノウハウを生かしたバイク(自転車)用、オートバイ用、スキーグローブがラインナップされている。
個人的に愛用しているのはフィンガーカットタイプのバイク用で、まず手にした時の軽さに驚かされる。さらに装着すると、 10個あまりのパーツを使って立体成型されている恩恵がすぐに感じられる。新しいグローブを装着したときは、どうしても、 どこかにツッパリ感や窮屈さが感じられるものだが、エルゴグリップにはそうした違和感はなく、 使い慣れて手に馴染んだグローブの感覚がはじめから備わっている。
冒頭の写真は、手の力を抜いている状態だが、このように軽く指を曲げた状態が、通常の手の形で、 エルゴグリップはこのフォルムに合わさせているため、リラックスしているときには、 グローブを装着していることを意識させないほど自然な感覚でいることができる。
これが平面的なフォルムのグローブだと、手は常に突っ張った状態に固定され、力が入りっぱなしになってしまうので、 それだけで腱や筋肉が疲労してしまう。ツーリングなどで一日グローブを装着しっぱなしでいると手のひら全体から手首、 肘あたりにかけてまでだるさを感じたりするが、エルゴグリップでは、そうしたグローブ由来の疲労感はない。
パーツを多用するということは、それだけステッチが多くなり、関節への当たりや強度が気になるところだが、よく細部を見てみると、 ステッチによる不快な感触や痛みが出ないように関節や手の筋に合わせてパーツが縫い合わされているのがわかる。 さらに指の動きに合わせて素材の異なるパーツが組み合わされ、伸縮方向などもよく考えられ、ステッチにかかる負荷も軽減されている。
バイク用グローブの作りは、ベースとなる通気性の高いニット生地に、 摩擦の強い手のひらや指の内側にはバックスキン様の合成皮革が当てられ、 とくに摩擦の強い親指の内側にはウレタンコーティングした素材が使われている。
バイク用グローブでは、ブレーキレバーに人差し指と中指をかけておくことが多いが、 この二本の指は動きやすいようにニット生地のままなのに対して、薬指と小指はウレタンコーティング素材が前面に使われていて、 防風やプロテクション効果を持たされている。
使えば使うほど、バイクライディングの生理とニーズを理解して作りこまれているのがよくわかる。
**動きの多い人差し指と中指はニット素材のまま。 薬指と小指にはプロテクション効果の高いウレタンコーティング素材のパーツが使われる**
**使用されている素材は、ベースとなる通気性の高いニット生地、 ハンドルグリップやレバーを滑らずにグリップできるバックスキン調の合成皮革、 そしてとくに摩擦強度が必要でプロテクション性も求められる部分に使われるウレタンコーティング素材の三種**
**親指内側に使われるウレタンコーティング素材は耐久性が高いと同時に、 適度な伸縮性も確保されていて疲れにくい**
**通気性と軽量化を考慮して、必要最小限の範囲をカバーする手のひらの当革。 クッション素材がラミネートされているので、ハンドルの振動を吸収して疲労を軽減してくれる**
**屈伸の頻度が高い指の第二関節は、立体化するために二つのパーツが縫い合わされている。 しかもステッチをジグザグにすることで、関節への不快な当たりをなくし、 ステッチ自体の伸縮性が指へのストレスを軽減している**
**手首への当たりを避けるために曲線カットされたベルクロタブや夜間にライトを反射するリフレクトテープをパイピングしてデザインアクセントとするなど、 細部の気配りが心憎いほど**
**裏返してみると、細かい素材使いやステッチの工夫がよく分かる**
**リラックスした状態で自然に曲げられた手の形状が、 エルゴグリップのトレードマークになっている**
ところで、このエルゴグリップのバイク用グローブ。ぼくは通常バイク用として使うと同時に、 ロープを使って木に登る"ツリーイング"というアクティビティのグローブとしても愛用している。
ツリーイングでは細かいロープワークや樹上での作業をするために、指の先端がむき出したフィンガーカットグローブが重宝する。 さらにロープを使って懸垂下降するために、手のひらと親指の内側にはプロテクションが欠かせない。そして、樹上で人を引っ張り上げたり、 不安定なポジションで体を支えたりするため、手に汗をかきやすく、高い通気性があるとありがたい。 それらの条件を全て兼ね備えているのがこのバイクグローブなのだ。
今までは、耐久性は高いものの暑くて使い続けられなかったり、 細かい作業はしやすいものの懸垂下降を何度もするうちに生地自体がすり切れてしまったりしたが、 このグローブは快適であり耐久性も満足できるものとなっている。
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