ぼくは、太平洋岸の町で生まれ育ち、一般的に言えば「海育ち」の部類になる。だが、故郷の海は波が荒く、 沖で親潮と黒潮がぶつかって冷水海や離岸流を引き起こす「恐ろしい」海のため、マリンスポーツとはほとんど縁がなかった。
ときどき海釣りに誘われて行くことはあったが、それも舟に乗って沖へ行くようなものではなく、 海岸から投げ釣りしてキスやらカニやら小物が申しわけにかかる程度で、「醍醐味」は感じられなかった。
そんな海育ちで海嫌いのぼくに海の楽しさを教えてくれたのは、瀬戸内海だった。
去年の9月に、みんなに惜しまれながら閉鎖された香川野遊び屋。ここで、自分の故郷の海と比べると、 まるで池のような瀬戸内海でシーカヤックを漕ぐ楽しみを覚えた。
毎年必ず何度か訪ね、マリンブルーの海に漕ぎ出して、無人島に上陸し、そこでランチを楽しんだり、キャンプで盛り上がったりした。
広い海原をどこへでも自由に進めるシーカヤックは、オフロードバイクで砂漠を走る開放感、爽快さと共通するものがあり、 しかも人力故に、自然がより身近に感じられる。
気まぐれに野遊び屋を訪ねれば、そこには気のおけない仲間がいつもいて、装備も艇も全て借りて、そのまま海へと漕ぎ出せた。
せっかく身近になった瀬戸内海が、香川野遊び屋が無くなってしまったことで、急に遠い場所に感じてしまうようになった。 夏の大きな楽しみがすっぽりと抜け落ちて、「また夏山にでも通うか」などと思っているところへ飛び込んできたのが、 香川野遊び屋のスタッフだった小前夫妻が、同じ瀬戸内でアウトフィッターを開いたというニュースだった。
それが先月の話しで、このコラムにも紹介した。
今回、他の取材で高松を訪れたのを機に、そのフリークラウドまで足を伸ばしてみた。
高松から車で1時間あまり、香川県と愛媛県の境に位置する仁尾町は、 晴天率が高い瀬戸内の中にあってもさらに晴れる確立が高いところで、当日は高松市内が豪雨に見舞われたのに、カラッと晴れて、 夏の太陽が痛いほどに照りつけていた。
フリークラウドは、「サンリゾート仁尾」というリゾート施設が持つ海の家を間借りしている。海の家といっても、 海岸に簡単な土台を築いて簾屋根を葺いた馴染みのものではなくて、立派な瓦屋根の日本家屋で、 プライベートビーチといってもいい小さな入り江に面している。
不意打ちのように訪ねたとき、ちょうど地元テレビ局の取材を受けている最中で、 代表の小前ショージ君とテレビクルーが透き通る水にカヤックを浮かべて、沖の蔦島まで渡っていくのをのんびりと眺めていた。
それにしても、ベースの目の前がビーチで、そこからすぐに出艇できるとは、なんと贅沢なことだろう。香川野遊び屋は、 岬の突端にあって、眺めは最高だったが、出艇するには近くの海岸まで車で移動しなければならなかった。
フリークラウドは、眺めも最高な上に、海へのエントリーも申し分ない環境にある。ただ、 このフリークラウドまでのアクセスが車以外だとかなり大変だが、だからこそ、この奇跡のようなロケーションが残されていたと思えば、 アクセスの悪さは、逆に財産と言えるかもしれない。
**フリークラウドに隣接する「サンリゾート仁尾」。宿泊棟もあって、 ゆったりと滞在できる**
今回はイレギュラーな訪問で、こちらもシーカヤックが楽しめる用意をしておらず、ショージ君も取材対応で忙しそうなので、 フリークラウドは周辺を確認しただけでお暇し、対岸の蔦島へ町営渡船で渡ってみた。
岬を一つ隔てた仁尾漁港から30人乗りの渡船で10分。ビーチの端に赤い鳥居が目立つ沖の無人島「蔦島」に上陸する。
海を渡るというと、ぼくのような外海育ちの人間にとっては、大事業のように感じられてしまうのだが、 この瀬戸内ではごく日常の足といった感じで、3人だけの乗客なのに、気軽に船を出し、蔦島に着くと、「それじゃ、帰るときはここへ電話して、 迎えに来るから」と携帯番号を書いた紙片をよこすと、あっという間に帰って行ってしまった。
蔦島は、無人島とはいっても、管理の行き届いたキャンプ場ときれいなビーチがあって、シーズン中は管理人も常駐している。 フリークラウドからシーカヤックでも30分あまりと、手頃な距離にある。
仁尾町と向かい合ったビーチがキャンプサイトにもなっていて、島の中はのんびり散策できる遊歩道が整備されている。 炎天下のビーチは焼かれるような暑さだが、一歩樹林の中に入ると、涼しい風が抜けてきて心地良い。
10分も歩けば島の西側に抜け、そこにもビーチが広がっている。こちらのビーチは瀬戸内の島々を見渡し、 人工物がほとんど見えないので、どこか遠くの南の島にいるような感覚になる。
高松市内のほうからやってきたのか、ビーチには一隻のプレジャーボートが係留され、 岸辺にテントを張ってのんびりしている家族連れがいた。こうした非日常が簡単に味わえる瀬戸内のライフスタイルのなんと羨ましいことか……。
**蔦島には平安初期に山城の国から分社された賀茂神社が鎮座する。元は巨石信仰があったらしく、 様々な岩が「御神体」とされている**
ちなみに、今回の訪問は、9月26、27日に開催する"e4アウトドアミーティング"(仮称)の下見も兼ねていたが、 フリークラウド周辺とこの蔦島の環境に、あれもしたいこれもしたいと、アイデアがどんどん膨らんできた。
フリークラウドのシーカヤックツアーで蔦島を周遊し、蔦島ではツリーイングやトレッキングを、 そしてフリークラウドのベースではアロマや海遊びの様々なワークショップを開催する予定だ。
うわー!たくさんご紹介いただき、ありがとうございます。
瀬戸内の「海時間」を満喫してもらえるようなプログラム、
充実させていきますね。
e4イベント、盛り上げましょう!
投稿情報: みつこ@フリークラウド | 2009/07/22 06:43