前回の仕込み編では、 「数日おきに、経過報告をする」と締めくくったけれど、いったん仕込みを終えてしまうと、 発酵の進み具合に合わせてごくごく大ざっぱに温度管理をするくらいで、日々、さほど変化するわけでもないので、一気に間が空いてしまった。
今日は仕込みから18日目にして、ビール造りのクライマックスともいえる「瓶詰め」作業を迎えたわけだが、ごく大ざっぱに、 仕込みから今日までをここまでを振り返ってみよう。
・第四日 2月10日
朝、起きると室温は9℃。シュラフでグルグル巻きにしたビール樽は14℃を示していた。中を透かして見ると、保温が効いたのか、 上面に澱が残り、かなり発酵が進んだのがわかる。
エアーロックからは、時おり、「ポコッ」と可愛らしい音を立てて空気が吹き出し、まだまだ発酵が進んでいることがわかる。
その後、暖房をつけた部屋の中では、樽の温度は16~18℃で安定していて、規則正しく「ポコッ、ポコッ」と酵母の呼吸音が続く。 深夜、仕事をしていると、この音が意外なほど大きく響く。それが、なんとなく、健気な生き物が傍らにいるようで楽しくなってくる。
・10日目 2月17日
表では梅が満開だが、暖かい日があったかと思えば、急に真冬に逆戻りしたり……。ツリーイングのイベントがあったり、 急用で田舎に帰ったりして、この気温変動の中で、何も手をかけず、ほとんど放置してあったが、まだ、安定して発酵が続いている様子。
しかし、ずっと部屋にいて、傍らに樽があると気づかなかったが、外出して戻ってくると、微かに漬け物のような匂いがする。
昔、祖母に言いつけられて、物置に置かれた漬け物樽の中からたくあんやら白菜やらを取りにいったことが思い出される。祖母は、 生まれつき鼻が利かない体質だったため、発酵が進みすぎて強烈な匂いを放つようになった漬け物樽でも平気で手を突っ込んでいたが、 樽がそんなコンディションになってしまったときは、ぼくは鼻が曲がりそうで、物置の扉に手を触れることすらできなかった。
祖母の嗅覚がない分、逆の隔世遺伝として発現したのか、ぼくはとても匂いに敏感で、それが鼻の利かない祖母に育てられたものだから、 腐敗臭や発酵臭はことのほか弱い体質になってしまった。
そんなわけで、留守にしていた部屋に戻って、あの物置と同じ種類の匂いを嗅ぎ取ったときは、不吉な思いに囚われた。
・18日目 2月25日
思い切り冷え込んで、0℃近くにまで室温が落ちた日が何回かあった。そんな日は、さすがに酵母の愛らしい呼吸音が止んでしまい、 慌てて風呂にぬるま湯を張って、樽ごと入浴させた。こうして温めると、またポコッポコッと息を吹き返す。
そんなことを何度か繰り返し、上面の泡もほとんどなくなったので、そろそろ瓶詰めの頃合いと判断した。
試しに、コップに取って味見してみると、濁った感じは個性的な地ビールといった風情で、香りは明らかにビール。味のほうは、 完全に気抜けしたビールで、これから二次発酵で旨いビールに成長しそうな期待が持てる。
そして、いよいよ瓶詰め。
専用ブラシで丁寧に洗い、水気がとれたところで、内部をアルコール消毒する。そして、 二次発酵用の砂糖を750mlのビンに6gずつ入れ、慎重に樽からビンへと移していく……と、ここで、とんでもないことに気づいた。
ビンがぜんぜん足りないのだ。
何故か計算間違いをしていて、ビンは樽の半分の量の分しかない。あわてて、台所に転がっていた空き瓶をかき集め、洗浄消毒して、 詰めていくが、まだ樽には余ってしまう……そこで、ついにペットボトルにまで登場してもらって、なんとか全量を移し終えた。
**途中で、ビンがまったく足りないことに気づいて、こんな掟破りを行うハメに**
といったわけで、専用ボトルに体裁良く移したビールが居並ぶはずが、なんとも雑ぱくな様子となってしまった(笑)。たぶん、 遮光ビンに入れておかないと変質してしまう恐れがあると思うのだが、ここは、まあ初めての実験だし、失敗もいい勉強なるだろうと、 こういったラインナップで試飲のそのときを待つことにした……。
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