もう20年以上も前、はじめて書き下ろした単行本が、雑誌"RIDE"(モーターマガジン社)の連載として復刻されている。
今回は二輪マンガの第一人者である東本昌平氏の雰囲気たっぷりのカットが添えられて、 まだライターとして駆け出しの頃の若書きの文章が気恥ずかしくもあるが、懐かしい友人がパリッとして帰ってきたようで、 とても誇らしく感じている。
オートバイの祭典としてはもっともメジャーでもっとも老舗といってもいい『鈴鹿8時間耐久レース』。その第一回大会は、日本の 「在野」の技術力の高さを見せつけた大会となった。というのも、この大会では、大手メーカーが鎬をを削る中で、 ヨシムラとモリワキという一介の町のコンストラクターが目の覚めるような速さを見せつけて1位と3位を占め、 後に世界ロードレースの檜舞台で活躍する端緒となったからだ。
この本は、そのモリワキの世界デビューとなった第一回鈴鹿8時間耐久レースからはじまり、総帥である森脇護氏の半生を振り返り、 また森脇氏の師であり岳父でもあるPOP吉村=吉村秀夫氏やモリワキで活躍したライダーたちを追ったドキュメンタリーで、 20代半ばのぼくの渾身の一冊だった。
モリワキ本社ののある鈴鹿に滞在して、連日モリワキに「出社」し、森脇氏や奥さんはじめ関係者から長時間話をうかがった。また、 ぼくは直接鈴鹿の第一回大会を観戦したわけではないので、レース関係者にヒアリングしたり、 大宅文庫に通って当時レースシーンをフォローしていた『週刊ブレイボーイ』や『平凡パンチ』のバックナンバーを漁って、 灼熱の鈴鹿の様子を脳裏に再構成した。
鈴鹿でモリワキマシンのポテンシャルを見せつけ、後にWGPや耐久レースで活躍したグレーム・クロスビー氏には、 この本の取材では会えなかったが、この本を出したことがキッカケとなって、後にニュージーランドまで訪ねて歓待されることになった。
森脇氏といえば、つい一月ほど前に、NHKの"プロジェクトX"の再放送で奥さんとご一緒に出演されて、岳父であるPOP吉村氏の 『もの作り』にかける執念を振り返られていたが、 ひたすら自分の勘をを信じてパーツの一つ一つまで磨き込む吉村氏譲りの森脇氏の職人魂をぼくは思い出していた。
「大メーカーが莫大な費用をかけて、レースのためだけに開発したマシンがひしめく中にあって、 町工場の職人が市販車を改造したバイクが太刀打ちできるはずがない」……そんな嘲笑を跳ね返して、 ワールドレースの世界に切り込んでいった師弟の姿は、稚拙な自分の文章ながら、読み返していくうちに、勇気が湧いてくる。
自分のやりたいことをひたと見据え、人に惑わされず、どんな逆境でも自分を信じて前に進んでいく…… そんなヨシムラやモリワキが示した職人魂を今のぼくたちはもっとも必要としているのかもしれない。
>bacchirinさん
コメントありがとうございます。
じつを言いますと、私はライダーとしてはオフロード系でして、サーキットではなく砂漠で、血湧き肉躍らせておりました。
でも、大昔の自分の文章で当時を振り返ってみると、社会がとても前向きだったなぁと思います。
今の社会が活性化するためには『伝説』が必要なのかもしれませんね……アメリカには「オバマ」という伝説が誕生しましたが、日本には、どんな伝説の可能性がかるのでしょうかねぇ。
投稿情報: uchida | 2009/02/02 21:15
伝説の記録者とはまたすごいことです。
真夏の八耐は、血湧き肉踊る感があって、青春にちかい熱がありました。
投稿情報: bacchirin | 2009/02/02 20:46