レイトショーで『into the Wild』を観る。
ウィルダネス(荒野)に憧れ、文明社会に背を向けて、コロラド川を下り、砂漠で暮らし、そしてアラスカへ……。
ぼくがライフスタイルのモデルにしたいと昔から思っているコリン・フレッチャーは、ウィルダネスへの憧憬を持ち、 そこに単身踏み込んでいくけれど、都会や文明生活を否定するわけではない。
また、ウィルダネスの湖畔での孤高の暮らしを実践し、それを『ウォールデン』に著わしたソローも、 ウォールデン湖畔の暮らしを数年続けたにすぎない。
into the Wildの主人公クリス・マッカンドレスは、恵まれた家庭環境に育ち(といっても、それは表面的なことに過ぎず、 彼が荒野へ向かう動機の大きな部分を家庭環境が占めていたことが徐々にわかってくるのだが)、大学を優秀な成績で卒業しながら、 名前も含めて、それまでの自分の人生に付随していた全てを捨てて、放浪を始める。
この世は全て偽善に満ちている……そんな青臭い認識は、どんな青年でも持つ。でも、徐々に世間との折り合いをつけて落ち着いていく。 彼の場合は、そんな想いが激しすぎ、ひたすら孤独へ、自然へと向かわせていく。
だが、人間社会を嫌悪して、それまでの自分を捨てた彼は、放浪のうちに様々な人との出会いを通して、 人はそれぞれ苦悩を抱えているが健気に生きていることを知る。そして、いつしか、青臭い青年だった彼は、 人に生きる勇気を与えられる人間に成長している。
アラスカという「正真正銘の大自然」は、彼が再び人間社会に戻ってくるための、大きなターニングポイントになるはずだった……。
これは、実話を元にした話だ。
ついに、体は帰ってこれなかったクリスだが、彼は、自分の死期を悟って、出会った全ての人に対する感謝の言葉を記し、最後に、 自分の本来の名前を記す。彼の魂は、しっかりと彼を好きだった人たちの元に帰ってきたのだろう。
純真無垢な魂が損なわれてしまう切なさ、運命の残酷さ、自然の前での人間の無力……だけど、人間は本来素晴らしい、 生きるということは輝いていることだと思わせてくれる。
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