この数日、ネット配信で見損なっていた映画を観た。
『アイアムレジェンド』と『キングダム』。前者は、遺伝子操作ウイルスによってガンを克服したものの、それが結局、 人類滅亡にまで導いてしまい……というストーリー。後者は、テロリズムの連鎖がテーマの作品だ。
『アイアムレジェンド』では、冒頭で細菌学者がテレビインタビューを受け、 ガンを克服したという誇らしい気分をいかにも控えめな態度に見せながら、自慢でたまらないといった表情をするシーンが印象的だ。 人類を滅亡へ導くウイルスに自分の名を冠されることになる彼女は、いったいあの後、 どうなったのか? キリスト教社会でのルシファーを象徴するような、あの存在のほうが、ぼくにはウィル・ スミスが活躍する予定調和的ストーリーよりもよほど気になってしまった。
『キングダム』は、これまた人間の愚かさの一つである「復讐心」がメインのテーマだが、アメリカ側にしろ、 イスラム原理主義側にしろ、事件をきっかけにして呟かれる「大丈夫、きっとあいつらを皆殺しにしてやるから……」という言葉に、 そのシチュエーションで吐かれた瞬間に、それが心を正直に表した言葉だと納得できてしまうところに、 復讐というものの根の深さがあると思せられる。
そして、これはドキュメンタリー作品……。
63年前、被爆直後の長崎にやってきたジョー・オダネルは、軍の記録カメラマンとしてこの地を踏み、 その惨状にたまらない気持ちを抱いて、密かに個人的に記録し始める。
白い短パンに白いシャツで裸足の、まだ7、8歳の男の子が、おんぷ紐で幼い自分の弟を背負い、唇をぎゅっと噛みしめながら、 直立不動で立っている。首をカクンと折って力なくぶら下がる背中の弟は、すでに亡くなっている。
少年は、目の前で焼却されていく原爆犠牲者の亡骸を見つめながら、弟を焼く順番を待っているのだ……。
真珠湾攻撃の報を聞き、「卑怯な日本人どもを皆殺しにしてやる」と決心して太平洋戦争に従軍したオドネルは、 長崎で写真撮影を続けるうち、「どうして、人間が他の人間に対してこんなことができてしまったのだろう」と呆然とする。
そして、いったんは封印した自分の写真を長崎の現場に立ったときから40年後に発表する。
アメリカ社会は、この写真に衝撃を受け、大多数はオドネルを「被国民」と非難する。
アメリカはずっとヒロシマとナガサキを戦争を終結させるために必要な攻撃だったと自己正当化し続けてきたが、 その真実の一端を自国民の告発によって見せつけられ、恥ずべき気持ちをぶつける先が、オドネル当人にしかなかったのだろう。
オドネルは、従軍を終えてホワイトハウス専属のカメラマンとなる。そのとき、ヒロシマ、 ナガサキへの核攻撃を命じたトルーマン大統領に質問する。「あなたは、どうして同じ人間に対して、あのようなことができたのですか?」と。
トルーマンは、憤然として答える。「私は、あの作戦を前の大統領から引き継いだだけだ」と。
今、世界中に溢れる『悲惨』としっかり向き合うこと……それが復讐というおぞましい行為に人が陥らないために必要な処方箋だと思う。
でも、それが自分の身に起こったとき、ぼくは復讐を思いとどまることができるかどうか……それは自信がない。
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